「琉球新報」(2010年12月18日) 論壇、投書
沖縄市の新土地利用計画案 「推計」は数字のトリック
前川盛治(泡瀬干潟を守る連絡会・事務局長)
※以下は、上記の「論壇」の関係資料、及び考察の結果である。
沖縄市案の推計「入域観光客数」は、統計学の分からない人の数字遊びであり、その推計は幼稚なペテン・トリックである。沖縄市案の重要な部分は「観光リゾート」であるから、この推計が誤りであれば、沖縄市案の経済的合理性の無さはあまりにも明白である。
2010年12月14日 泡瀬干潟を守る連絡会
T.H16年度県調査から、沖縄市立寄率は計算できない。
◎ 沖縄市案で使われたH16(2004)年度の県調査は、77箇所の観光地から訪問した場所を全て選ぶ(複数選択)ものである。その調査票とデータは下記である。
(平成16年度観光統計実態調査、平成17年3月、沖縄県観光リゾート局)
◎例えば、沖縄市(コザ)を訪問した人は、全体514.3%の中の7.4%である。
● このデータはただそれだけを示すものであり、このデータを使った沖縄市が推計した計算式は成り立たない。下記は沖縄市の推計である。
新沖縄市案、付属資料、「主な需要予測の考え方 @入域観光客数
平成22年7月30日
沖縄市の推計の計算式@⇒県データから「中部東海岸入域観光客の沖縄市立寄率」を計算する。
計算式:15.3÷25.1×100=61% ⇒この値は中部東海岸入域観光客の沖縄市立寄率ではない。25.1の数値の中の15.3の割合を示しているだけ。
分母25.1%(東南植物楽園7.9%+沖縄市(コザ)7.4%+伊計島5.3%+勝連城跡2.4%+中城城跡2.1%)=中部東海岸観光客数
分子15.3%(東南植物楽園7.9%+沖縄市(コザ)7.4%)=沖縄市観光客数
沖縄市の推計の計算式A⇒県データから「中部地域入域観光客の沖縄市立寄率」を計算する。
計算式:15.3÷79.8×100=19.2% ⇒この値は中部地域観光客の沖縄市立寄率ではない。79.8の数値の中の15.3の割合を示しているだけ。
分母79.8%(東南植物楽園7.9%+沖縄市(コザ)7.4%+伊計島5.3%+勝連城跡2.4%+中城城跡2.1%+北谷アメリカビレッジ16.5%+琉球村13.6%+残波岬10%+ムーンビーチ4.3%+座喜味城跡3.7%+むら咲むら3.7%+コンベンションセンター2.9%)=中部地域観光客数
分子15.3%(東南植物楽園7.9%+沖縄市(コザ)7.4%)=沖縄市観光客数
※ 沖縄市の計算式は、複数回答の数値を足したり、割ったりしている。
例えば、東南植物楽園を訪問した人が、沖縄市(コザ)も訪問したら、この人は2回計算されたことになる。また有る人が、この地域のすべてを訪問すれば、5回計算されたことになる。1地域だけ訪問すれば、1回だけ計算される。この式(東海岸訪問者の沖縄市立寄率)が成り立つためには、重複部分を除くためにデータを調べ直す必要がある。また、そのように計算された値は、「5つの地域」を訪問した人の中の沖縄市を訪問した割合であり、「中部東海岸」の訪問者に対する割合ではない。さらにこの値は、平成16年度の結果であり、平成30年には当てはまらない。ましてや、「東南植物楽園」は現在閉鎖されており、このデータを使って平成30年を予測するのは根本的な間違いである。
上記の計算式は成り立たない(間違いである)が、もし、この計算式が成り立つとすれば、同じ資料をもとに県入域観光客数(全体)から沖縄市入域観光客(東南植物楽園+沖縄市コザ)の割合が計算できることになる。
分母:514.3(全体)、分子:15.3(東南植物楽園+沖縄市コザ)、15.3÷514.3×100=3%、850×0.03=26万人。
H30年度の沖縄市入域観光客は26万人となり、沖縄市の68万とは大きな差がでる。この二つの推計は、どちらも間違いである。
下記は、平成18年度県観光統計実態調査の調査票とデータである。
平成18年度観光統計実態調査 平成19年3月 沖縄県観光商工部
この図表1―15調査は県15箇所から訪問地(複数回答)を調べるものである。6.中部東海岸に○をつけた人が、全体2,050名のなかで15.1%(約309名)であった、ことを意味する。
図表1・16は5.中部西海岸、6.中部東海岸のどちらか(両方も含む)に○をした人の集計である。図表1−15の「中部東海岸15.1」と「中部西海岸28.2」を足し算した数値43.3ではない。
沖縄市案の方法では、図表1−15から中部地域訪問者は43.3%ということになるが、これは間違いであることも分かる。図表1−15の複数回答を足し算に使うことが間違いであることから、県の調査は5.中部西海岸、6.中部東海岸のどちらか(両方も含む)を調査して割合35.4%を出している。この方法は正しい推計の仕方である。
このH18年度県データの「中部東海岸」と先ほどの沖縄市の推計のH16年度・「中部東海岸」(東南植物楽園+沖縄市(コザ)+伊計島+勝連城跡+中城城跡)は全く違うものであるのに、沖縄市案は同じとして扱い数値の掛け算をしている。これも間違いである。
同じように図表1−16の「中部地域」と沖縄市の推計のH16年度・「中部地域」も全く違うものである。
沖縄市案は、統計学を全く知らない人の数字遊びであることが明らかである。
V.H18年度県調査、「海・ビーチ・海浜リゾート」を訪問する割合(複数回答)60%をそのまま、東部海浜開発地区を訪問する割合として使うのは、あまりにも非常識である。
沖縄市案はまた、H18年県調査・県入域観光客が「海・ビーチ・海浜リゾート」を訪問する割合(複数回答)60%をそのまま使い、沖縄市観光客が東部海浜開発地区入域観光客数を計算している。直近の2006年度の55.9%があるのに、2000年、2003年、2006年のデータを平均した値(60%)を使ったとしているが、平均は59%である。
下記は、平成18年度観光統計実態調査(平成19年3月 沖縄県観光商工部)のデータである。
沖縄市の推計はあまりにも出鱈目、非常識である。
1.上記のH18(2006)年度県調査は「県観光客の60%が県内のどこかの海・ビーチ・海浜リゾートに行った」という意味である。これをそのまま使うと、「沖縄市を訪れた観光客で、どこかの海・ビーチ・海浜リゾートに行きたい人は、全員、必ず東部海浜地区に行く」ことを意味する。その結果、「年41万人(冬でも雨でも毎日1123人)が東部海浜地区に押し寄せる」という非常識がまかり通る。
2.「ある市町村の観光地を訪れた人だけが、一定の割合でその市町村のビーチに行く」とか「どの市町村でも、陸上の観光地とビーチで客数の比は同じ」という仮定は、沖縄本島では成り立たない。
3.沖縄市案と同じ方法で、中部西海岸(浦添・宜野湾・北谷・嘉手納・読谷・恩納村の一部)、那覇のビーチ(波の上ビーチ)に来る客数を計算してみた。
すると、中部西海岸の全ビーチに来るのは、県観光客のわずか17%、144万人となる。泡瀬埋め立て地は、中部西海岸のビーチの3分の1強の客数になる。一方、波の上ビーチには、海洋博公園を上回る348万人・県観光客のなんと41%(冬も雨の日も、毎日、9千5百人)が訪れる。沖縄市案の推計が成り立つとすれば、このような出鱈目な推計が成り立つことになる。
中部西海岸のビーチにくる観光客:850×0.282×0.6=144
波の上ビーチに来る観光客:850×0.683×0.6=348
東部海浜開発(泡瀬埋立)地に来る観光客
推計1:850×0.151×0.6×0.6=47
推計2:850×0.354×0.192×0.6=35
両方の推計値の平均:(47+35)÷2=41
W.沖縄市のH20年度県観光客数推計630万人は、実績を61万人を過大に推計している。
沖縄市推計・「宿泊需要の考え方」も数値を誤魔化し、市内のホテルに対する間違った考え方に基づいている。
下記は沖縄市案の付属文書「宿泊需要の考え方」である。
この予測の間違いを指摘する。
1.
沖縄市観光客数68万人、東部海浜観光客数41万人が間違いであることはこれまで指摘した。間違った推計に基づく「宿泊需要の考え方」が成り立たないことを先ず指摘する。
2.
この考え方は、H20年観光客数(605万)から出発している。21年は推計630万であるが実績は565万人であり、65万人過大である。H22年は、67万人(予測653人の約10%の誤差、実績586人の約11%の誤差)の過大予測である。下記の表(沖縄市予測数)は、沖縄市提供のデータである。実績は、県発表データである。調査は暦年である(年度ではない・・注意)
沖縄市の「入域観光客数」予測に使われている各年度の県観光客数の予測(2008年以降) |
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年度元号 |
年度西暦 |
実績数 |
沖縄市予測数 |
差 |
H20 |
2008 |
605 |
605 |
|
H21 |
2009 |
565 |
630 |
-65 |
H22 |
2010 |
586 |
653 |
-67 |
H23 |
2011 |
|
676 |
|
H24 |
2012 |
|
699 |
|
H25 |
2013 |
|
723 |
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H26 |
2014 |
|
747 |
|
H27 |
2015 |
|
772 |
|
H28 |
2016 |
|
797 |
|
H29 |
2017 |
|
822 |
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H30 |
2018 |
|
848 |
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X.沖縄市の観光客の現在の宿泊数は1.84泊であるのに、H30年度は、沖縄市も県の現在の宿泊数(2.71泊)になるとして計算されている。その結果、沖縄市宿泊者需要数が過大に計算されている。
3.
H30年沖縄市宿泊人数25.1万人は、これまで指摘した推計の誤りに基づく68万人から推計された数値であるから、そのまま使うのは問題だが、仮にその値を使ったとしても、その後の推計にまた、間違いがある。H20年度宿泊人数は17.9万人であるから、引き算したらH30年度の宿泊人数は7.2万人(25.1−17.9=7.2)しか増加しないのに、沖縄市の推計は「13万人増・東部海浜新規宿泊需要数」となっている。何故そうなっているのかを調べると、沖縄市の観光客の現在の宿泊数は1.84泊(沖縄市の宿泊者延べ人数33万÷宿泊者数17.9)であるのに、H30年度は、沖縄市も県の現在の宿泊数(2.71泊)になるとして計算されている。沖縄市の宿泊数も県並みになる「考え方」である。
沖縄市の現在の観光は「素通り」観光で、宿泊も県平均より低いのに、東部海浜地区ができたら、県並みになるという考え方は、あまりにも我田引水である。
※ 沖縄市案の推計「入域観光客数」は、統計学の分からない人の数字遊びであり、その推計は幼稚なペテン・トリックである。沖縄市案の重要な部分は「観光リゾート」であるから、この推計が誤りであれば、沖縄市案の経済的合理性の無さはあまりにも明白である。