クビレミドロについて
学名:Pseudodichotomosiphon constricta (Yamada) Yamada
琉球大学名誉教授 香村眞徳
目次
1 生物学的特性
2 クビレミドロの学術的意義
3 生育地の現状と生育地の環境
4 泡瀬干潟におけるクビレミドロ移植の現状
クビレミドロは藻類の中の黄緑藻類に所属する海産種である。体の色は濃緑色を帯びているので(写真1)、体色から見ると緑藻類によく似ている。しかし、黄緑藻であるクビレミドロは、光合成色素として葉緑素aとcを持っているのに対し、緑藻類は葉緑素aとbを持っているので異なるグループである。クビレミドロは、フシナシミドロ目のフシナシミドロ科*に所属し、1属1種からなる特異な存在である。しかも、本種は沖縄島に生育する貴重な藻である。
沖縄県が日本に復帰した1972年以降、埋め立てなどによってクビレミドロの生育地は消滅し急減した。そのことにより、本種はレッドデータのカテゴリーとして、絶滅危惧T類(環境庁, 2000)、絶滅危惧種(水産庁, 1998、沖縄県, 1998)に評価されている。
以下では、クビレミドロの生物としての特性学術的意義などを説明しつつ、その生育にはどのような自然条件が整うことが必要なのかを述べ、泡瀬干潟におけるクビレミドロ移植の現状、特に移植は可能であるのかについて説明します。
1. 生物的特性
1) 形態
海産。多核性糸状体。体は濃緑色。ほぼ球形の直立部(高さ1〜2cm、直径3cmに達する)と砂中にある仮根からなる。単独に点在、時に複数の房が集合、またマット状にもなる。直立部(地上部)を構成する糸状体(直径240〜300μm)は、単条または1〜2回分枝、細胞いとには所々にくびれがある。仮根は泥・砂を取り込んでいる。有性生殖器官は糸状体に側生的に作られる。生卵器(雌性生殖器官)は球状で、直径240μm。造精器(雄性生殖器官)は小舟状で、長さ170〜190μm、直径70〜100μm。両生殖器官は、別々あるいは同じ糸状体に作られる。受精卵(直径220〜240μm)は茶褐色。藻体は12月下旬ごろに出現し、5月ごろには消失する。無性生殖については不明。
2) 藻体の季節的変化
クビレミドロの藻体には明瞭な季節的変化がみられる。与那城村屋慶名の海岸で1995年12月から藻体の継続観察を行った。その結果、若い藻体は水温の下降した12月下旬に小団塊の直立部(0.8cmほどの径,以後,株と呼ぶ)が認められる。この幼株は、年を越し、糸状体の数を増し、また枝の隙間に細砂やシルトを溜めながら球状部(直立部)径を増大、成長する。幼株も12月から翌年2月にかけて株数を増し、2月には生卵器と造精器をつけた株が見られるようになる。水温の上昇する3〜4月には、すべての株が受精卵を持つ。4月には株の径も約2cmに達し最盛期を迎え、放出された受精卵が多数観察されるようになる。藻体は次第に枯死し始め,6月には完全に消失してしまう。受精卵は越夏後、12月下旬に再び幼株が出現する。
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* フシナシミドロ科: フシナシミドロは、糸状をした体で、仕切がなく管状になっているため
節が無いことを意味する。糸状体は管状であるばかりではなく、多核であるのが特徴。この科の
代表的な属には、フシナシミドロ属とクビレミドロ属がある。
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2. クビレミドロの学術的意義
クビレミドロは干潟環境に適応した特異な形態をもつ海藻で、日本においては琉球列島、しかも沖縄島に生育する貴重な種である。本種の生活史についてはまだ不明な点が残されており、核の行動はもとより、無性生殖が存在するものなのかどうか、まだ分かっていないのが現状である。このことから,種に関する生理生態学的な解明と情報の蓄積が必要である。
また、藻体には仕切のない1個の細胞からなり、しかも多核である特異な体制(管状藻)を持つ。このような藻類には、クビレミドロの属する黄緑藻類の他、熱帯や亜熱帯海域に多産する緑藻類に多く存在する。このことから、両藻類の進化の過程を明らかにするためにも好都合な材料の一つと言える。
3. 生育地の現状と生育地の環境
1) 生育地とその現状
クビレミドロは、Yamada(1936)によって那覇(タイプ産地*。埋め立てによりタイプ産地は消滅、現在の若狭町)の材料を基に新種として発表されて以来、クビレミドロの生育地は,添付した地図に示した13カ所で確認されてたが、1994年〜1997年の3年間の調査で、その約4分の1(23%)に当たる3カ所(恩納村太田、与那城屋慶名、沖縄市泡瀬)でしか本種の生育が存続しているに過ぎない。現在でもこの3カ所に加え、2006年になり、埋立によって消失した生息地(平安座島と知念半島久手堅)の近傍で、事業者によって、新たに生息が確認されたと報告されているが、私自身はまだ確認をしていない。
表1で、現存する3カ所の生育地と、何らかの要因でクビレミドロが消滅・消失した生育地について詳細に述べてあるので、その表を参照してください。
まずはじめに、クビレミドロの存続している3カ所の生育地が、沖縄県の「自然環境の保全に関する指針−沖縄島編」(1998)の中でどのように位置付けられているかを示すと下記のようになる。
(1) 恩納村太田海岸----------(写真2)
本生育地は沖縄海岸国定公園内にある。また、保全指針では「評価ラ
ンクI」内にある。 クビレミドロの生育良好。
(2) 与那城屋慶名海岸--------(写真3)
本生育地は、保全指針で「評価ランクI」と「評価ランクII」が接す
る位置にある。 クビレミドロの生育良好。
(3) 沖縄市泡瀬三丁目海岸----(写真4)
本生育地は、保全指針で「評価ランクII」の海域内にあり、「評価ラ
ンクI」の海域が接している。 クビレミドロの生育良好。
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* タイプ産地:クビレミドロが新種として発表された際、採集された場所を言う。新しい生物種の記
載には重要な場所である。クビレミドロのタイプ産地は那覇であることから、タイプ産地の消失は
大きな損失です。
**評価ランク;沖縄県「自然環境の保全の指針(沖縄島編」(1998)の中で、海域の評価ランクとして
次の4つのランク付けがなされている。
ランクI :自然環境の厳粛な保護を図る区域
ランクII :自然環境の保護・保全を図る区域
ランクIII:自然環境の保全を図る区域
ランクIV :自然環境の創造を図る区域
---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------- これまで自生していた生育地の消滅,また個体群の絶滅した既知の生育地が,どのような経過を辿ってきたのか,それらの要因について整理すると次のようである。詳細については表1を参照。
@ 埋め立てによる生育地の消滅
生育当時の状況
那覇市若狭町 :終戦後の埋め立てによる生育地の消滅 :生育量不明
浦添市西洲 :1972以後の埋め立てによる生育地の消滅 :生育量少ない
宜野湾市伊佐浜 :近年の埋め立てによる生育地の消滅 :生育量少ない
与那城町
字平安座 :シルトの堆積による個体群の消滅と :生育量少ない
その後の埋め立てによる生育地の完全
な消滅
A 生育地の隣接海岸域の開発による底質環境の変化に伴う個体群の絶滅
名護市屋我地字屋我:船着場の建設 :生育量少ない
北中城村奥武岬 :周辺の海岸の改変 :生育量普通
中城村北浜 :漁港建設
:生育量少ない
知念村知念 :漁港建設 :生育量不明
B 台風による生育地の攪乱による個体群の絶滅
糸満町名城 :底質の撹乱 :生育量少ない
C 排水等の影響による生育地の悪化に伴う個体群の絶滅
豊見城村根間 :生育環境の悪化 :生育量不明
表1 沖縄島におけるクビレミドロの生育状況に関する変遷
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確認年 確認者 |
その後の生育の有無 と 確認年・確認者 ●:生育 ×:確認されず |
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生育地 |
生 育 状 況
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沖縄島西側海岸 |
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糸満市名城 |
1960・4 香村真徳 1961・4 山岸高旺 |
× 1962〜1964 香村真徳
1995・2 |
隆起さんご礁からなる小島の間の砂泥質底上に,マット状に叢生する小規模な群落(約2坪)を1960年4月に確認。また,山岸(1964)の研究材料として1961年4月に採集された場所でもある。1962年から約3年間継続観察を行ったが,その間本種が出現することはなかった。台風による砂泥質の攪乱が原因。 |
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1995年にも確認されず。 |
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豊見城市 与根 |
1959・3 香村真徳 |
× 1995・6 香村真徳 |
細砂,砂礫からなる平坦な干潟潮間帯で,1959年3月に確認。1995年の調査では確認されず。現在の潮間帯は漁港と糸満地先の埋め立て地に挟まれ、さらに陸域から流入する排水等の影響で岸よりに泥が堆積,また悪臭を放つ等、底質環境は悪化。そのことが個体群の生育維持を阻害したものと考えられる。
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那覇市若狭 |
1939 前半 山田幸男 |
× 1956年以降随時 香村真徳 |
第二次大戦後、那覇市の沿岸は埋め立てによって改変され、Yamada(1934)が記録した産地「那覇」は,当時の海岸地形から考えると現在の若狭町近辺であると判断される。残されていた僅かの岩礁地帯もビーチなどに改変され、生育に最適な底質環境は存在しない。 |
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浦添市西洲 |
1956・6 伊佐次郎 |
× 1995 香村真徳 |
1956年6月に伊佐次郎氏によって採集されたが,生育適地に相当するさんご礁礁原内側の砂礫帯は埋め立てられたため,本種の生育地は消滅したものと判断された。残されたさんご礁を観察しているが、クビレミドロの生育は確認されていない。
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宜野湾伊佐浜 |
1957・4 香村真徳 |
× 1995 香村真徳 |
1957年4月にさんご礁礁原の岸寄りの砂礫帯の中にパッチ状の砂泥質底上に、点在的生育しているのが観察されたが,1970年代にさんご礁は埋め立てられために生育地は消滅。 |
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恩納村太田 |
1975・4 香村真徳 |
● 1995・6 1996・4 随時観察
香村真徳 |
半島状の突出部と隆起さんご礁からなる小島に挟まれた小さな入江で、そこは概ね細砂質底の平坦な広い潮間帯を備えている。生育する範囲は0.5ha程で、平坦面の中央付近から低潮線にかけ出現するマツバウミジグサやコアマモの海草帯の裸地内にパッチ状あるいは点在的に生育する。 1996年4月22日に、本種の生育する海岸側から低潮線にかけて設置した78mの測線に沿って、50×50cmの方形区を連続して設置し株数を計数した結果,総数3950株で、1方形区の最高株数は267株(被覆率80%)であった。 本種は初めて観察した1975年の生育状況と変わってはいないが、一部には赤土が堆積し,また赤土の被覆する個体も観察され、行楽客による踏みつけ等による生育が懸念される。 |
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名護市屋我地 字屋我 内海側 |
1962・3 1968・4 香村真徳 |
× 1994・3
香村真徳 |
1962年と1968年に,潮間帯下部の細砂質底上に点在、あるいは群生しているのが確認された。しかし、護岸拡張,船揚場・ボート係留場建設による底質の攪乱,また泥の異常な堆積による生育環境の悪化していたため、個体群は完全に消滅していた(1994・3)。
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沖縄島東側海岸 |
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うるま市 与那城平安 座島集落前 |
1968・4 香村真徳 |
× 1995・3
香村真徳 |
1960年代に砂質底上に生育しているのを確認。その後、平安座島と宮城島間の埋め立てのために周辺海底からの砂礫採取が行われ、その結果、生育地に厚さ20cm程にのぼるシルトが堆積しために,不適な底質環境に変った。その後さらに、架橋工事のために埋め立てられ,生育地は完全に消滅。 |
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うるま市与那 城屋慶名 |
1995・5 香村真徳 |
● 1996以降定期・ 随時観察 香村真徳 |
生育地は海中道路と薮地島に挟まれた海中道路寄りで、小礫の混じる細砂、細砂に泥混じりの平坦な潮間帯で、広くて浅い潮溜まりを備えている。本種の生育する範囲は約6haで、群生あるいはマット状に叢生。現存する3カ所の生育地の中で,生育範囲は最も広く、個体数も多い。 |
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沖縄市泡瀬 |
1970・3 香村真徳 |
● 1995・5 以降随時観察 香村真徳・岸本和雄 |
生育地は湾奥部に位置。現在の海岸部は埋め立てられ、平坦な潮間帯は護岸から幅約250mで,岸側から約200m付近まで砂混じりの礫帯である。それに続いて礫の混じる細砂帯となり,海草のウミヒルモとマツバウミジグサがパッチ状に生育。1996年5月の観察時には、この細砂底に散在的に出現、また海草が生育する広い潮溜まりを囲むように群生またはマット状に生育。
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沖縄市奥武岬 |
1975・3 大村徹雄 |
× 1996・5 香村真徳・岸本和雄 |
奥武岬は泡瀬に隣接する位置にあり、1974年4月に潮間帯下部の砂礫帯に海草のマツバウミジグサと共にクビレミドロが生育しているのが確認された(大村,1975)。1996年5月に の調査では、クビレミドロを観察することはできなかった。 中城湾沿岸における埋め立てや沿岸の開発が進められる中、生育地に必要とする底質環境が維持されるかにかかっている。おまのところ、個体群を再生させるには厳し状況下にあると判断せざるを得ない。 |
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中城村北浜 |
1970・4 香村真徳 1975・3 大村徹雄
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× 1995・4 香村真徳・岸本和雄 |
1970年4月にクビレミドロが潮間帯下部付近の砂質底に点在的に群生しているのを確認,さらに同地で1974年4月に大村(1974)によって再確認された.その後,生育地に近 接して漁港が建設され,それによって潮の流れが変化したものと考えられるが,砂の移動によって砂礫帯が礫帯に変化し,生育適地条件である底質環境の悪化で,生育を確認されていない.恐らく同地の個体群は絶滅したものと思われる. |
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南城市知念 知念 |
1980 後半 高原隆明 |
×
1997・2 香村真徳・岸本和雄 |
高原・千原(1990)は研究材料として本種を知念から採集しているが、1997年2月の調査で同地およびその周辺海岸 で、本種の生育を確認することができなかった。沿岸部に大型漁港が建設されたために砂質の移動がおこり、生育していた当時の底質環境がかなり変わったことが、個体群の生存維持を不可能にしたものと考えられる。 |
2) 生育地の環境
クビレミドロの生育に最も重要な条件として、外海から遮蔽された地形と、クビレミドロが生育するための足場である安定した底質であることが、表1から読み取ることができる。生育地のいくつかは、湾内・内海・入り江などに広がる、規模の大きな干潟で、小礫混じりの細砂質底からなるところである(太田、屋慶名、泡瀬)。また、礁池*を備えたさんご礁では、岸寄りの砂礫帯のなかにある小礫を含む細砂質のパッチ状の部分が生育の場となる。それに相当する生育地は、名城や西洲、伊佐浜なで、生存していた当時、生育地の規模は
小さく、また生育量も少なかった。かつての生育地そのものが埋め立てによっ
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* 礁池: 裾礁タイプのさんご礁(陸から沖側にほぼ平たんな礁原が広がる)には、干潮時でも陸地と沖側の瀬の 間に、干上がらずに横たわる壕状の池で、浅いもの(2、30cm)から深いもの(4,5m)まで様々。
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て消滅したものも多い(若狭町、西洲町、伊佐、平安座島)が、生育地近傍の沿岸の改変(埋め立て、漁港など)に伴う、底質環境の変化(漂砂)がクビレミドロの個体の生存を許さなかったのも多い(屋我地、奥武岬、北浜、知念)。
干潟においてクビレミドロの生育する位置は、干潮時に干出する潮間帯下部の低潮線付近に近い平坦面である。生育地には丈の低い海草(海産種子植物:ウミヒルモ、マツバウミジグサ、コアマモなど)が群生することがある。海草が生育することは、それ自体底質の安定化をはかる重要な貢献者である。
クビレミドロが生育するための安定的な底質環境が提供されるには、干潟の広さが重要であると判断される。干潟が広ければ広いほど良好な底質環境が提供され、生育範囲も広く豊富な個体が維持されているとものと判断される。
表1に示したように、クビレミドロの現存する生育地やかって生存していて生育地から判断されることは、静穏な場でかつ安定した底質以外に、満潮時に生育地に清澄な海水の流入することも重要な要素であることは言うまでもない。
そのため、まとめると、以下の条件が満たされない限り、クビレミドロの持続的な生存を保証することはできない。
@ 潮汐流によって清澄な海水のスムーズな流れが確保できるか。
A 持続的な静穏化によるシルトや泥、細砂の堆積が容易に起こるのでではないか。その懸念を完全に除去することが可能か。
B 逆に流れが速くなり砂の移動が起こり礫化しないか。その懸念を完全に除去することが可能か。
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礫化:流れが速くなった場合、砂質底の砂の移動が起こり礫のみが残ること、また他の場所から運ばれてくることもある。
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C (クビレミドロの移植先やその周辺に)小型海草の生育を確保するこ とができるか。
D 十分な広さの干潟が確保できるかどうか
4 泡瀬干潟のクビレミドロ移植の現状
1 そして、泡瀬干潟におけるクビレミドロ移植の現状は以下の通りであり、クビレミドロの移植は今なお確立されていない。
2 アセス書でクビレミドロは「移植試験を実施した結果、技術的にも移植することが可能であると判断される」とあるとした上で、事業者は、具体的にクビレミドロの保全のために、以下の措置を執るとしている。
ア.泡瀬地区のクビレミドロの屋慶名地区等への移植
イ.移植したクビレミドロの泡瀬地区人工干潟への再移植
ウ.クビレミドロの室内増殖技術開発試験の実施
また、それに伴い、@移植及び生育地の創出技術(現地移植実験)、A培養による育成管理及び種の保存技術(室内培養実験)の開発を主要な課題として検討を進めてきた。
そして、上記の実験によって得られた結果としては、屋慶名地区、勝連地区への藻体移植では、移植後、複数年にわたる再生産を確認し、フラスコ内では、受精卵から群体形成までの培養が可能であるとしている。
しかしながら、現地移植実験については、事業者も認めているとおり、移植株由来からの群落の分布や密度は経年的に安定しているとはいえないため、今後は移植群落が長期的に維持されるよう生育場の条件に着目した技術開発が必要とされるとしており、移植したクビレミドロが長期的に維持されるのかどうかについては、何らの成果も得られていない。また、環境影響評価書でクビレミドロの生育が確認された生育面積0.9ha内の大量のクビレミドロをいかに安定的に培養し供給するかについての技術も未だ確立していない。
また、室内培養実験については、室内(フラスコ)培養した藻体を、大型水槽内での培養技術を確立するにはどうすべきかという段階であり、実際の海域で培養したクビレミドロが生育可能かどうかはまだ確認されていない。
移植先として適した条件の生育地については、人工干潟を創出して移植するとしているが、移植先として適した条件の人工干潟は未だ出来ていない。また、人工干潟を想定し、屋慶名地区で生育したクビレミドロを勝連地区への藻体の移植実験(屋慶名地区のクビレミドロ生息地の卵を含む砂床移植)も平成18年1月に始めたばかりであり、移植藻体における卵の再生産を確認する必要があることから、平成19年の藻体出現期まで継続して調査する必要が有るとしている。
以上より、移植先の環境が前述したクビレミドロ生育状況を満たし、泡瀬地区のクビレミドロの大量移植が、工事以前の状況まで回復することが本当に可能なのかどうかの結果は得られておらず、移植技術は確立されているとは到底言えない。
そして、少なくとも、移植が本当に可能であると言えるには、数年間にわたり安定的に再生産が行われているかについての継続的な観察や検討を行い、クビレミドロが自力で持続的に維持されていると言う結果が得られることが必要である。
5 参考文献
香村眞徳, 1997. クビレミドロ. “日本の希少な野生水生生物に関する基礎資料(W)”
(財)日本水産資源保護協会, 440-449, VI. 水生植物 図版-1.
環境庁編, 2000. 改訂・日本の絶滅の恐れのある野生生物-レッドデータブック-植物U(維
管束植物以外)蘚苔類・藻類・地衣類・菌類.
(財)日本環境研究センター, 429pp.
大村徹雄 (1976) 中城湾の海産植物. 琉球大学理工学部生物学科卒業研究, 77 pp.
沖縄県, 1996「沖縄県の絶滅のおそれのある野生生物−レッドデータおきなわ−」, 沖縄
県環境保健部自然保護課編.
沖縄県, 1998「自然環境の保全に関する指針(沖縄島編)」. 沖縄県環境保健部自然保護
課編. 893pp.
水産庁編, 1998. 日本の希少な野生水生生物に関するデータブック. (財)日本水産資源
保護協会,
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高原隆明 (1993) クビレミドロ. 堀
輝三編「藻類の生活史集成 第3巻 単細胞性・鞭毛藻
類」,pp. 227-228.,内田老鶴圃,東京.
高原隆明・千原光雄, 1990.
管状藻類クビレミドロの分類学上の位置. 植物研究雑誌, 65:
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高原隆明 (1993) クビレミドロ. 堀
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Yamada, Y.,
1934. The marine Chlorophyceae from Ryukyu, especially from the vici- nity of Nawa. Jour. Fac. Sci., Hokkaido. Univ.
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山岸高旺, 1964. 二三の沖縄産管状藻類について. 植物研究雑誌, 39: 82-90.