第9章 本件埋立事業・東部海浜開発事業の合理性の欠如

 

第1 合理性が必要とされる理由について

 1 公有水面埋立法は、免許・承認の要件として、「国土利用上適正且合理的ナルコト」との要件を要求している(公有水面埋立法4条1項1号、42条3項)。

    地方自治法、地方財政法の規定も、地方公共団体の事務について、経済的な合理性を要求している(地方自治法2条14項、地方財政法4条1項等)。

 2 一般に埋立が自然環境に少なからぬ影響をもたらさずにはおかない性質のものであるところ、本件埋立事業および東部海浜開発事業の対象が前述するように極めて貴重・重要な自然環境である泡瀬干潟であることを考慮すると、本件埋立事業および東部海浜開発事業が合理的なものといえるためには、当該事業に要求される必要性の程度は高度のものでなければならない。

 3 ところが、本件埋立事業及び東部海浜開発事業の目的とされる@浚渫土砂の処理、A「マリンシティ泡瀬」というマリーナ・リゾートの建設は、いずれも法が要求する合理性を有するものとはいえない。

 

第2 浚渫土砂処理目的の合理性の欠如

 1 泡瀬地区埋立工事と東埠頭浚渫工事との不可分性

   政府が中城湾港東埠頭浚渫工事の土砂捨て場として泡瀬の埋立を行うという形で直轄工事として参加するということを決めた経緯、A工事の計画状況から、2つの工事は不可分・一体であることが明らかである(甲24、79、野中尋問調書2頁、吉川尋問調書1〜2頁)。

   前述したとおり、本件埋立事業および東部海浜開発事業の対象が極めて貴重・重要な自然環境である泡瀬干潟であることを考慮すると、これらと密接不可分の関係にある東埠頭浚渫工事に要求される必要性の程度も高度のものでなければならない。

 2 浚渫作業の緊急性・必要性がないこと(FTZが機能していないこと)

 (1)中城湾港新港地区港湾整備・埋立事業の問題点と東埠頭浚渫工事の必要性

    中城湾港新港地区の2次、3次埋立事業は、土地の分譲について極めて不成績な状態となっている。特に、特別自由貿易地域指定用地では、ほとんど分譲されていない(野中尋問調書5〜6頁、甲97−2表4、吉川尋問調書7頁)。

    また、東埠頭の浚渫工事は、13Mの深さを要する大型船の航路確保を目的としているが、大型船を必要とする企業は新興地区にはない。西埠頭においても13M(―7.5M、5.5M岸壁)の深さがあり、大型船の来航が可能であるが(甲80−1−19、野中尋問調書21頁)、大型船が来航していないのである。

    さらに、特別自由貿易地域指定用地では、独立採算制であるにもかかわらず、赤字分を県債で調達し、分譲するはずの工場を賃貸としている。しかも値引きをしている(野中尋問調書6頁、甲97−2−表5)。

    このような状況において、大型船の航路確保を目的とする東埠頭の浚渫工事を行う必要性はない。

 (2)自由貿易地域政策の妥当性

    FTZにおける東埠頭浚渫工事を必要とする理由として、特別自由貿易地域政策を将来にわたって推進する点があげられる。

    しかし、この自由貿易地域振興モデルの成否のポイントは、関税免除という恩恵が輸入と輸出を拡大するほどの効果をもたらすものであるか否かという点にあるところ、そもそもわが国の関税品目は限られており、また沖縄県の輸入額はもともと大きくなく、関税免除という恩典だけで、輸入額・輸出額の増加は見込めない。

    沖縄のように、本土からの移入がほとんどを占め、他のアジア諸国に比して労賃コストが高く国際競争力が弱く、もともと関税免除メリットが乏しい地域を自由貿易地域に指定したこと自体が間違いである。

    沖縄における自由貿易地域政策の有効性については、先行事例として、那覇地区の自由貿易地域がある。多大な費用をかけた那覇地区の自由貿易地域であるが、失敗に終わっている(野中尋問調書8〜10頁、甲88)。

    関税免除という恩典だけでは輸入額・輸出額の増加が見込めないことは上記のとおり始めから明らかであり、それに加え、那覇の先例もあったのであるから、特別自由貿易地域(FTZ)が失敗に終わることは、平成12年の埋立免許承認当時、既に予測できたことである(野中尋問調書12頁)。

    したがって、自由貿易政策の観点からも、FTZにおける東埠頭の浚渫工事は不要である。

 (3)地域振興目的からみた東埠頭浚渫工事・泡瀬地区埋立工事の問題点

    地域振興目的からも,東埠頭浚渫工事・泡瀬地区埋立工事は不要である。

    東埠頭浚渫工事・泡瀬地区埋立工事における浚渫・埋立作業は、海上での機械・重機・運搬車による土砂搬出と運搬作業が主で、そのオペレーターと補助要員程度の労働力で作業が可能であるため、浚渫・埋立工事による雇用効果は小さい(野中尋問調書13〜14頁、甲89)。

    また、東埠頭浚渫工事・泡瀬地区埋立工事において、浚渫・埋立工事を受注する業者は、浚渫能力の高いポンプ浚渫船を保有する本土の一部の大手港湾建設会社に限られる。

    主要な工事以外の岸壁築造や運搬仮設道路、埋立後の基盤整備工事など比較的小規模工事は県内企業が受注する可能性が高いが、上記からすると、県内の経済波及効果や雇用効果は小さい(野中尋問調書13〜14頁、甲69)。

    そして、上記のようなこと(東埠頭浚渫工事・泡瀬地区埋立工事については、県内の経済波及効果や雇用効果は小さいこと)は、平成12年当時、容易に予測できたことである(野中尋問調書16頁)。

 3 小括

   そもそも、浚渫土砂を生じさせる新港地区の特別FTZ構想そのものに合理性が存しないのであり、新港地区から発生する浚渫土砂を、極めて重要な自然環境である泡瀬干潟に廃棄し(埋立て)なければならないような合理性・必要性が存しないことは明らかである。

 

第3 マリーナ・リゾート建設の合理性の欠如

 1 埋立必要理由書記載の宿泊需要の欺瞞性

   本件埋立事業の土地利用計画の中心となるのは、約187haの埋立後の利用面積のうち、最大の37万2886uを占める、4つのホテルやコンドミニアム、コテージで構成される宿泊施設建設用地である(甲133:1−45)。 

   この点につき、埋立必要理由書は「当該(泡瀬)地区の宿泊施設用地は、平成18年に沖縄本島中部地域で不足する157千人分の需要量のうち、107千人分を受け持つものである。」とし(甲25:埋立必要理由書「1−69」)、平成18年には、沖縄本島中部地域において、157千人分の不足する宿泊の需要があるとしている。

   しかし、埋立必要理由書が引用する資料にある数字、埋立必要理由書がよって立つ考え方・計算方法を正しく用いた場合、そもそも平成18年に沖縄本島中部地域で157千人分の不足する(宿泊)需要量なるものは発生しない。

  以下詳論する。

 (1)不足するとされる宿泊需要157千人分の計算の過程については、概ね以下のとおりとなっている(甲25)。

        平成18年(2006年)における県全体の入域観光客数を6,160,000人と推計している。

    そして、中部地域(浦添市及び西原町以北〜読谷村及び石川市以南の13市町村)における入域観光客数を沖縄県の全体の20.14%として,616万人×20.14%=1,241,000人と中部地域入域観光客数を推計している。

    中部地域における平成13年フレーム(本地区分を除く)によると1,084,000人を受け入れる施設があるので、中部地域入域観光客数1,241,000人から1,084,000人を差し引いて、157,000人分の宿泊施設供給力が、中部地域において不足するとしている。

    そして、平成18年度の沖縄市入域観光客数178,000人のうち約60%が泡瀬地区に来ると仮定して、178,000人×60%=107,000人が、平成18年度に泡瀬地区に入域すると推計している。

    そのため、中部地域で施設が不足する需要人数157,000人のうち,107,000人を泡瀬地区が受持つとしている。

    以上の推計に基づき、つぎのような人泊/年を算定している。

      泡瀬地区年間利用人数=入域観光客数×平均滞在日数

         =107,000人×5.27泊=563,890人泊/年

    この数値に基づき年間利用人数を算定し、1275室という推定をしている。

 (2)埋立必要理由書は、平成18年の中部地域入域観光客数1241千人を算出する際に用いた沖縄県全体の入域観光客数のうちの中部地域が占める割合である20.14%という数字について、被告沖縄県知事が被告沖縄県知事準備書面(4)で金科玉条のように用いる「重点整備地区整備計画調査報告書」(平成4年3月:沖縄リゾート計画共同企業体)の数字をもとに算出しているとしている(甲25:埋立必要理由書「1−22」)。

 (3)この「重点整備地区整備計画調査報告書」(甲64)は、バブル経済絶頂期である平成2年に策定された「リゾート沖縄マスタープラン」、事後的に見ればバブル経済が崩壊したといわれている時期より後である平成3年11月に承認された総合保養地域整備法(通称リゾート法)に基づく「基本構想」を、具体的な地域においてどのように展開していくかを検討したものであり、具体的には「塩谷・奥間海岸地区」、「本部地区」、「北部東海岸地区」、「与勝海岸地区」、「南部海岸地区」の5地区についての開発の基本的な方向を検討したものである。

    ここで、注目すべきは、この「重点整備地区整備計画調査報告書」は、上記5地区について検討をした報告書であって、本件埋立工事の対象となる「泡瀬地区」を直接の検討の対象としたものではないことである。

    また、同調査報告書が作成された平成4年3月頃といえば、バブル経済の崩壊が景気に与える影響について軽視されており、バブル経済の余韻をそのまま引きずっていた時期である。現に同調査報告書には、「バブル経済の崩壊」という文言は一言も出てきておらず、バブル経済絶頂期に策定された「リゾート沖縄マスタープラン」の見直しに言及する記載も皆無である。

 (4)同調査報告書は、「W.開発フレーム」という項目の中で、「平成12年を目標とするリゾート沖縄マスタープラン(平成2年 沖縄県)では、観光・リゾート入込客の計画フレームを基本構想は各プロジェクトとの整合を図りつつ、500〜600万人と設定した。しかしながら、県下市町村においてはリゾート法に基づく特定民間施設以外にもリゾート開発計画が旺盛を極めている状況にあることから、平成12年における観光・リゾート宿泊施設の供給過剰が見込まれる。これらの計画プロジェクトを全て認めることとなると、地域キャパシティ(水やゴミ処理等生活関連インフラ、地域特性を生かしてバランスのとれた産業振興を図る上で必要な産業別の労働力の確保等)を超えることが懸念されるとともに、観光リゾート市場の需給バランスが大幅に崩れ、新規事業者のみならず、既存業者にも深刻な影響を及ぼすことが懸念される。

    以上の実情に鑑み、計画フレーム500〜600万人に対応した適正規模のリゾート開発を推進するためには、各市町村が持つ受入容量(キャパシティ)に十分配慮した施策展開が肝要であるので、それに見合った宿泊客数もしくは宿泊施設に関するフレームを検討し、調和と秩序のとれたリゾート開発に努める必要がある。」としている(甲64:重点整備地区整備計画調査報告書91頁)。

    上記を要約すると、ようするに、「このままだと宿泊施設がたくさんできすぎてしまい、供給過剰の状態となってしまうので、ある程度整理をして、供給過剰にならないようにコントロールをする必要がありますね。」という内容である。

    ここでは、本件埋立事業に関する埋立必要理由書に記載されているような、不足する宿泊需要(入込客に対し宿泊施設の方が不足する事態を意味する)なるものは全く念頭におかれていない。

 (5)そして、同調査報告書は、建設中もしくは計画中のリゾート計画について

   (ア)重点整備地区の特定民間施設

   (イ)公共団体が推進するリゾート計画

   (ウ)メインコア

      (「メインコア整備計画調査(平成3年3月 沖縄県)において、各重点整備地区の整備目標との整合を図りつつ、メインコアベルトゾーンにおける各プロジェクトに係る宿泊需要の配分を行ったもの」とされている。)

   (エ)上記以外のリゾート計画

      (「上記(ア)〜(エ)以外にも数多くある建設中あるいは計画中のリゾート計画があり、それらについて各市町村で把握しているリゾート開発計画について市町村アンケート・ヒアリングを行い把握したもの」とされている。)

   などに分類をし、地区別リゾートフレームについて下記のとおり9つのシミュレーションケースに基づき地区別の入込客数を算出している(入込客数の算出方法は、既存もしくは計画されている宿泊施設ごとの収客可能数に一定の稼働率を乗じ、さらに一定の平均滞在泊数を乗じる方法で算出している。)。

    @ シミュレーションケース1

      既存ホテル+許可済プロジェクト

    A シミュレーションケース2

      既存ホテル+許可済プロジェクト+特定民間施設

    B シミュレーションケース3

      既存ホテル+許可済プロジェクト+特定民間施設+公共プロジェクト(30%)

    C シミュレーションケース4

      既存ホテル+許可済プロジェクト+特定民間施設+公共プロジェクト(30%)+本申請中プロジェクト

    D シミュレーションケース5

      既存ホテル+許可済プロジェクト+特定民間施設+公共プロジェクト(30%)+本申請中プロジェクト+メインコア

    E  シミュレーションケース6

      既存ホテル+許可済プロジェクト+特定民間施設+公共プロジェクト(30%)+本申請中プロジェクト+メインコア+事前協議済プロジェクト

    F シミュレーションケース7

      既存ホテル+許可済プロジェクト+特定民間施設+公共プロジェクト(100%)+本申請中プロジェクト+メインコア+事前協議済プロジェクト

    G シミュレーションケース8

      既存ホテル+許可済プロジェクト+特定民間施設+公共プロジェクト(100%)+本申請中プロジェクト+メインコア+事前協議済プロジェクト+事前協議中プロジェクト

    H シミュレーションケース9

      既存ホテル+許可済プロジェクト+特定民間施設+公共プロジェクト(100%)+本申請中プロジェクト+メインコア+事前協議済プロジェクト+事前協議中プロジェクト+事前協議に向けて申請中+計画内容を把握せず

 (6)そして、本件埋立事業に関する埋立必要理由書では、前述した「20.14%」という数字(平成18年の中部地域入域観光客数1241千人を算出する際に用いた沖縄県全体の入域観光客数のうちの中部地域が占める割合)については、上記『「重点整備地区整備計画調査報告書(H4.3)沖縄リゾート計画共同企業体」の平成12年における推計比率(ケース6とケース9の平均)を用いた』とされている。

  ア 上記ケース6とケース9の平均を用いて推計比率を算出するということは、上記Eのシミュレーションケース6と上記Hのシミュレーションケース9の平均、すなわち、

     既存ホテル(100%)

     許可済プロジェクト(100%)

     特定民間施設(100%)

     公共プロジェクト(65%=(30%+100%)÷2)

     本申請中プロジェクト(100%)

     メインコア(100%)

     事前協議済プロジェクト(100%)

     事前協議中プロジェクト(50%)

     事前協議に向けて申請中(50%)

     計画内容を把握せず(50%)

   という既存もしくは計画されていた宿泊施設について、地区別の入込客数を算出(その際上記()内の割合を乗じる)した合計(これにより沖縄県全体の入込客数が算出される。)のうち、中部地区が占める割合を算出することを意味している。

  イ 「重点整備地区整備計画調査報告書」の数字をもとに計算すると、ケース6とケース9の平均は以下のとおり20.20%となる(埋立必要理由書では何故20.14%になっているのか理解に苦しむが、このような重要な意味をもつ数字についての明白な誤りがチェックされることもなく、訂正されることもないまま、免許・承認されていることは、埋立必要理由書自体の杜撰さだけでなく、免許・承認手続自体の杜撰さを如実に物語っている。)。

  (ア)沖縄県全体     6640.5千人

      【計算】 (5,662(千人)+7,619(千人))÷26,640.5(千人)

  (イ)中部地区(地域)  1341.5千人

      【計算】 (1,116(千人)+1,567(千人))÷21,341.5(千人)

  (ウ)沖縄県全体の入域観光客数のうち中部地域が占める割合

                20.20%

      【計算】 1,341.5÷6,640.5×10020.201792・・・≒20.20    

 (7)埋立必要理由書では、上記割合が平成18年にも妥当するものとの前提に立った上で、推計した平成18年の沖縄県全体の入域観光客数6160千人に上記割合を乗じて、平成18年の中部地域入域観光客数を1241千人と推計している。

    【計算】 6,160千人×20.14%≒1241千人

 (8)ところで、「重点整備地区整備計画調査報告書」では、前述した「公共プロジェクト」の中に既に「東部開発計画」(本件埋立事業のこと)が含まれているため(甲64:重点整備地区整備計画調査報告書93頁)、上記1241千人の中には、東部開発計画において計画されている宿泊施設の収客可能数に一定の稼働率を乗じ、さらに一定の平均滞在泊数を乗じる方法で算出した入込客数のうちの65%(ケース6(30%)とケース9(100%)の平均)が計算の過程の中で含まれていることになる。

    しかるに、本件埋立事業に関する埋立必要理由書は、この点について何ら言及することなく、「中部地域における平成13年フレーム(本地区分を除く)は1084千人(資料:前出(「重点整備地区整備計画調査報告書」のこと))であり、将来入域観光客数1241千人に対し、157千人分の宿泊施設が不足する」と結論づけている。

    1241千人の中に既に東部開発計画において計画されている宿泊施設をもとに算出される入込客数が一定の割合で含まれている(これを「A」とする。)ときに、これを考慮にいれない入込客数との差を求めればAが不足することは下記計算のとおり小学生でも分かる理屈である。

     【計算】 1241千人=東部開発計画において計画されている宿泊施設も含めて計算した入込客数

         A=上記1241千人のうちの東部開発計画において計画されている宿泊施設をもとに計算した入込客数

         B=中部地域における入込客数のうち東部開発計画において計画されている宿泊施設をもとに計算した入込客数を控除した入込客数(埋立必要理由書でいう「本地区分を除く」という処理である。)

          =1241千人−A

         C=埋立必要理由書がいう中部地域において不足する宿泊需要

          =1241千人−B

          =1241千人−(1241千人−A)

          =A

    上記の論理構成ではAという数字につき、需要があるのかどうかという検討など全くしようがないことは明白である。

 (9)この点につき、埋立必要理由書は、上記Bを以下のとおり意図的に操作することにより、いかにも不足する宿泊需要が存在するかのような誤魔化しをしている。

  ア 埋立必要理由書は、1241千人という数字を計算した際には、ケース6とケース9の平均に基づいた計算をしている。

  イ ところが、上記Bを計算する際には、「中部地域における平成13年フレーム(本地区分を除く)は1084千人(資料:前出)であり」と計算をしている。

    この1084千人という数字は、「重点整備地区整備計画調査報告書」のケース6における中部地区の入込客数1116千人から、この1116千人の中に含まれている東部開発計画において計画されている宿泊施設をもとに計算した入込客数に相当する32千人(ケース6に含まれている30%相当部分)のみを控除した数字である。

    ※ 「重点整備地区整備計画調査報告書」によると、ケース2とケース3の差は、ケース3に含まれる公共プロジェクト(30%)のみであるところ、沖縄市においては、ケース2における入込客数が63千人で、ケース3における入込客数が95千人であることから、沖縄市における公共プロジェクト30%に相当する部分(東部開発計画において計画されている宿泊施設の収客可能数に一定の稼働率を乗じ、さらに一定の平均滞在泊数を乗じる方法で算出した入込客数の30%)は、32千人ということになる。

      また、「重点整備地区整備計画調査報告書」によると、ケース6は2000年までに開花が想定されるプロジェクト群を想定したものであるとされているので、埋立必要理由書にある「中部地域における平成13年フレーム(本地区分を除く)は1084千人(資料:前出)であり」という計算がケース6のみをもとに計算されていることは間違いのないところと思われる。

  ウ しかし、ケース6とケース9における中部地区の入込客数の平均から、この中に含まれる東部開発計画から計算される入込客数を控除した入込客数を計算すると、下記計算のとおり1272.2千人となる。

    (ア)ケース6とケース9における中部地区の入込客数の平均

     1341.5千人

    【計算】 (1,1161,567)÷21,341.5(千人)

  (イ)上記に含まれる東部海浜計画から計算される入込客数の平均

     69.5千人

    【計算】 {(95-63)+(95-63)÷0.30}÷269.3(千人)

  (ウ)上記(ア)−(イ)  1272.2千人

    【計算】 1,341.569.31,272.2(千人)

    この1272.2千人という数字は、「重点整備地区整備計画報告書」の考え方からすれば、ケース6とケース9の平均をとった中部地区のプロジェクトのうち東部開発計画を除いたプロジェクトが実現したときに、既存施設においては平均滞在泊数3.27泊、新規リゾート施設においては平均滞在泊数5.27泊、ホテルにおいては稼働率65%、コンドミニアム、ヴィラハウス、コテージ、ペンション、マンション及び貸別荘においては稼働率30%程度で宿泊できる人数ということになる。

    埋立必要理由書にある平成18年の中部地域における将来入域観光客数1241千人(ケース6とケース9の平均に基づいて算出したもの)は計算上十分に宿泊することが可能であり、157千人分の不足する宿泊需要なるものは発生しないし、泡瀬地区で107千人も受け持ってもらわなければ宿泊施設が不足する事態というものも発生しない。

  エ なお、埋立必要理由書にある平成18年の中部地域入域観光客数1241千人の中に含まれている、東部開発計画において計画されている宿泊施設の収客可能数に一定の稼働率を乗じ、さらに一定の平均滞在泊数を乗じる方法で算出した入込客数を計算すると以下のとおりである。

  (ア)沖縄県の平成18年の入域観光客数  6160千人

    (前提を同じくするため埋立必要理由書の推計をそのまま採用する。)

    (イ)東部開発計画の入域観光客数の推計比率 1.045%

     推計比率については、前提を同じくするために埋立必要理由書同様、ケース6とケース9の平均を用いる。

   @ ケース6に含まれる東部開発計画の入域観光客数  32千人

    【計算】956332(千人)

   A ケース9に含まれる東部開発計画の入域観光客数 106.7千人

    【計算】32÷0.30106.6666・・・≒106.7(千人)

    B 推計比率 1.045%

   【計算】{(32106.7)÷(5,6627,619)}×1001.0451・・・≒1.045%

  (ウ)中部地域入域観光客数1241千人の中に含まれている東部開発計画入域観光客数  64千人

    【計算】6160×0.0104564.37264千人

  オ 東部開発計画において計画されている宿泊施設を除いた上で将来(平成18年)の時点で不足する宿泊需要を計算するのであれば、上記64千人分(前述したところからして、平成18年に東部開発計画における宿泊施設に宿泊するものであるという前提で1241千人という入域観光客数の中に含まれているため)については予め除外しておく必要がある。

        そして、埋立必要理由書の考え方に倣い本地区分(泡瀬地区の分)を除いた平成13年のケース6のフレーム1084千人と、将来入域観光客数1241千人のうち本地区(泡瀬地区)に宿泊するという前提で入域観光客数の中に含まれている上記64千人を除いた1177千人との差を計算すると、計算上93千人分の宿泊施設が不足することとなる(この不足分については、当然ケース6とケース9の差の部分のプロジェクトから東部開発計画を除いた上で50%の割合で実現した宿泊施設が受け入れ先となるものである。)。

    ところが、埋立必要理由書によると、平成18年に中部地域で不足する宿泊需要のうち107千人を泡瀬地区で受け持つと言うのである。

    上記のとおり、東部開発計画を全く考慮にいれない場合計算上93千人分しか不足しない宿泊需要について、これを上回る107千人を泡瀬地区で受け持ってしまうとすると、折角実現したケース6とケース9の差の部分のプロジェクト(但し、東部開発計画分は除く)による宿泊施設は、計算上1人も受け入れる必要がなくなってしまう。

    結局泡瀬地区は泡瀬地区自体の魅力で107千人という宿泊客を集客しなければならないこととなるが、埋立必要理由書ではそのような検討は全く為されていない。

  カ 埋立必要理由書の論理構成は、平成18年の中部地域の将来入域観光客数である1241千人を計算するときにはケース6とケース9の平均を用いて計算(ケース6とケース9の差の部分のプロジェクトも50%の割合で実現するとの前提に立っていることを意味する。)しておきながら、他方では、平成18年までには、ケース6以上の宿泊施設は一切実現しない(ケース6とケース9の差の部分のプロジェクトは一切実現しない。この場合、計算上不足する93千人については泡瀬地区に宿泊施設を建設すると泡瀬地区に宿泊する可能性があることとなる。)、仮に実現したとしても、どういうわけか、泡瀬地区以外の新規の宿泊施設には全く観光客は宿泊せず、その全てを泡瀬地区に宿泊させるという前提に立つものであり、よって立つ前提が矛盾している、もしくは全く根拠がなく妥当でない。

 (10)以上より、埋立必要理由書が引用する「重点整備地区整備計画調査報告書」にあるデータに基づいて、埋立必要理由書がよって立つ考え方に倣い、明らかに不合理な計算方法を是正した場合には、そもそも平成18年に沖縄本島中部地域で157千人分の不足する(宿泊)需要量なるものが発生しないことは明白である。

 (11)なお、埋立必要理由書記載の埋立の必要性の中核をなす、ホテルの宿泊需要の予測という極めて重要な点につき、免許・承認における県の直接の担当者である新垣氏は、免許・承認の8年以上も前である平成4年3月に作成された「重点整備地区整備計画調査報告書」なる資料が原点として引用されているにもかかわらず、その内容の確認すらしていないという有様である(新垣尋問調書39、40頁)。      

 2 埋立必要理由書記載の沖縄市の将来入域観光客数(平成18年)の欺瞞性

   埋立必要理由書では「将来入域観光客数1241千人に対し、157千人分の宿泊施設が不足する。」とした上で、「これら将来不足する宿泊需要を先のフレーム資料における市町村別入域客増加数を参考に推計すると以下のようである。」として、平成18年における中部地域全体での入域観光客数1241千人のうち沖縄市の入域観光客数については178千人と推計されるとしている(甲25:埋立必要理由書「1−23」)。

   しかし、この178千人という数字についてはその推計の過程が不明であり、全く根拠のない数字と言わざるを得ない。

 (1)埋立必要理由書が「中部地域市町村別入域観光客数(H18)」の合計について1241千人としていること、また、市町村別入域客増加数の推計に際し、「先のフレーム資料」(「重点整備地区整備計画調査報告書」のこと)を参考に推計するとしていることからすると、平成18年の沖縄市の入域観光客数の推計については、上記「1241千人」を推計した際の手法がそのまま採用されているはずである。

 (2)そこで、埋立必要理由書にある「重点整備地区整備計画調査報告書」の推計比率(ケース6とケース9の平均)を用いて、平成18年の沖縄県全体の入域観光客数を6160千人と条件を同じくして、沖縄市における平成18年の入域観光客数を推計する。

 (3)その結果は、下記計算のとおり、237.16千人となるのであり、埋立必要理由書に記載されている178千人という数字にはならない。

  ア 沖縄県全体     6640.5千人

    【計算】 (5,662(千人)+7,619(千人))÷26,640.5(千人)

  イ 沖縄市        255.5千人

    【計算】 (95(千人)+416(千人))÷2255.5(千人)

  ウ  沖縄県全体の入域観光客数のうち沖縄市が占める割合

                3.85%

    【計算】 255.5÷6,640.5×1003.8476・・・≒3.85%

  エ 平成18年の沖縄県全体の入域観光客数のうち、沖縄市の入域観光客数

      237.16千人

    【計算】  6,160×0.0385237.16(千人)

 (4)以上のとおり、平成18年の沖縄市の入域観光客数を1241千人と推計したのと全く同じ手法で、埋立必要理由書が引用する「重点整備地区整備計画調査報告書」の数字に基づき計算をしているにもかかわらず、埋立必要理由書記載の178千人という数字には全くなり得ない。

    埋立必要理由書記載の178千人という数字は一体どのようにして推計されたのか全く謎である。

 (5)また、埋立必要理由書では、上記の根拠不明の沖縄市入域観光客数178,000人の60%が泡瀬地区に入域することを前提として、178,000人×60%≒107,000人と泡瀬地区入域観光客数を推計している。

    しかし、この60%の根拠が不明(なお、「重点整備地区整備計画調査報告書」にも60%の根拠の記載はない。)であるため,泡瀬地区入域観光客数を107,000人と推計することはできない(吉川3頁)。

 3 平均滞在日数の欺瞞性

   埋立必要理由書が用いている平均滞在日数には合理性はない。

 (1)埋立必要理由書は、入域観光客につき1人当たり5.27泊の平均滞在日数(泊数)を見込んでいるとしている。

 (2)この平均滞在日数5.27泊について、被告沖縄県知事は、「埋立免許申請時に設定した宿泊数、稼働率は、学識経験者等で構成する委員会で検討された「重点整備地区整備調査報告書」に基づき設定している。」としている(被告沖縄県知事準備書面(4)「第2、2、(4)」)。

 (3)この点、「重点整備地区整備調査報告書」では、確かに「平均滞在泊数に関しては、新規リゾート施設が5.27泊、既存施設を3.27泊(平成2年実績)を見込んだ。」としている(甲64:重点整備地区整備調査報告書98頁)。

 (4)しかし、本件埋立事業につき、免許・承認の申請がなされたのは、平成12年のことである。

    前述したとおり、この「重点整備地区整備調査報告書」は、バブル経済の絶頂期ころに策定されたプラン、構想に基づき、バブル経済の崩壊の影響について何ら検討を加えることなく、平成4年3月に報告されたものであり、既存施設3.27泊という平均滞在泊数についても、平成2年というバブル経済の絶頂期の実績に基づいて設定をしているのである。

    平成2年から平成12年までの時代の変化を全く考慮することなく、「重点整備地区整備調査報告書に5.27泊とあるから、それをそのまま埋立必要理由書にも引用した。」「重点整備地区整備調査報告書は、学識経験者等で構成する委員会が検討して作成したものであるので問題ない。」などという主張がまかり通ることなど到底あり得ない。

 (5)現に、平成14年5月に策定された「沖縄観光振興基本計画」の「T 沖縄観光の現状と課題」中「(キ)宿泊滞在泊数の推移」(甲65:沖縄県観光振興基本計画10頁)によると、「昭和50年代はじめには、4.2泊あった平均滞在泊数は年々減少傾向にあったが、平成10年以降約2.7泊で安定して推移している。」とされている。

    同書によると、平成2年から平成12年までの平均滞在泊数は以下のとおりとされている。

     平成2年    3.31泊

     平成4年    3.14泊

     平成6年    2.94泊

     平成8年    3.19泊

     平成10年   2.76泊

     平成11年   2.74泊

     平成12年   2.68泊

    平成10年実績及び平成11年実績と平成2年実績との間には、0.5泊もの差がある。

    上記データは、沖縄県観光要覧を参照したものとされているのであり、本件埋立免許・承認当時沖縄県知事の職にあったものがそのような事実を承知していないはずがない。

 (6)平成12年3月に報告された「沖縄観光マーケティング調査報告書」(財団法人沖縄観光コンベンションビューロー)においても、「はじめに」という箇所で「今日の国内経済の景気低迷の中で、「安・遠・短」と言われる低価格旅行商品の流通による宿泊日数や個人消費額の減少傾向、更にはハワイ、グアム、オーストラリア等との激しい誘客プロモーションの競争など、沖縄観光を取り巻く環境は厳しい状況にある。」と、宿泊日数の減少傾向の原因が、(バブル経済崩壊による長引く)国内経済の景気低迷にあることが記されている(甲66:沖縄観光マーケティング調査報告書)。

    本件埋立免許・承認当時沖縄県知事の職にあったものが、そのような事実を承知していないはずがない。

 (7)バブル経済絶頂期の平成2年の実績をもとに設定された平均滞在泊数を、その後の時代の変化、平均滞在泊数の減少傾向という厳然たる事実を考慮することもなく、平成12年の申請の際にも漫然と採用していることに合理性などあるはずがないことは明白である。

 (8)なお、免許・承認についての県の直接の担当者である新垣氏は、具体的な数字は把握をしていないものの、「免許承認当時、沖縄に来る観光客の滞在日数が減少の傾向にあるということは、一般論としては知っている」旨証言している(新垣尋問調書42、43頁)。そのような人物が宿泊需要計算の根幹を為す5.27泊という平均滞在日数に何の疑問も抱かず漫然と免許・承認についての判断をしていることは驚きとしか言いようがない。

 4 その余の土地利用計画も成り立たないこと(実態のない土地利用計画)

 (1)施設の設置主体がないこと

    沖縄市では過去3回、埋立地への立地予定希望調査アンケートを実施した。

    1993年は294社を対象とし、115社が回答、うち立地希望33社であった。

    1996年は270社を対象とし84社が回答、そして立地希望数は市の担当者が「立地希望数を具体的に公表できるものではない」と公開拒否している。

    2000年では18社のうち立地希望者は2社と公表している(吉川尋問調書5頁、甲126、127−1〜4)。しかし、その内容は、事業参加の可能性について「やや可能性がある」との回答が2社というものである。沖縄市によると「やや可能性がある」との見込みが直ちに「立地希望」(報告書の記載によると「参加意向企業」と評価されている。)との評価につながるようである(甲126)。

    また、平成13年7月頃の調査(免許・承認のわずか半年程度後の調査である。)によると、大型主要施設として事業者側が予定している栽培漁業試験場の設置主体とされる中城湾沿岸漁業振興推進協議会は、「今の組織で管理運営は厳しい。資金面でも無理」と否定的であり、同じく海洋研究所の設置主体とされる琉球大学施設部は「そのような施設計画はない」と否定している(甲128、吉川尋問調書5、6頁)。さらに、県が設置する予定であった「生涯学習センター」についても県財政が厳しいため、沖縄市が他の施設を誘致する方針に切り替えている(甲128)という有様である。

    埋立免許承認後に、沖縄県・沖縄市が行った平成14年の確認結果においても(乙7:7、8頁)、栽培漁業試験場・海洋研究所・については、「改めて調整しているところである」「沖縄市が中心となって推進し、県も強力に支援を行う予定である」としか述べられておらず、同「確認作業について」の「(2)段階整備について」との項目に記載されている、「現時点において事業主体が決定している」とされる用地にも、「企業から進出意向のある」とされる用地にも、「需要の根強い」とされる用地にも位置づけられていない状況である(乙7:9頁(2))。

    そのような用地について、埋立必要理由書では、設置主体等につき「海洋研究施設用地」は「琉球大学」、「栽培漁業施設用地」は「中城湾沿岸漁業推進協議会」、「生涯学習センター用地」には「沖縄県の教育・文化活動の中核施設として、生涯学習活動の拠点となる生涯学習センターの用地を整備する。」と明確に記載されているのである。このような架空の埋立必要理由にて、免許・承認を請求することはもはや詐欺と評価せざるを得ないところである。

 (2)新垣証人がアンケート結果を確認していない点

新垣証人は、上記のアンケート結果について確認しないまま、埋立免許承認を行っている(新垣41頁)。

    上記アンケート結果は、埋立地の土地需要を予測するために、極めて重要な資料である。

    このような重要な資料についてなんら確認することなく,埋立免許承認をしている点からも,経済的に合理的のない判断がおこなわれていることが明らかである。

 5 「中城湾港泡瀬地区開発事業の推進にかかる確認作業結果について」(乙7)の欺瞞性

 (1)同書は

   「 将来の観光客数予測については、既存のリゾート地の場合は、過去の実績を基にある程度予測可能であるが、新設されるリゾート地の場合は、関連施設整備等の魅力創出のあり方等によって比較的優位性も異なってくることから、既存のリゾート地に比べ難しいのが実情である。

     そのため、現計画においては、便宜的な方法として、県の入域観光客数616万人の内、107千人を泡瀬地区に配分し、一人当たり目標平均滞在日数5.27泊を乗じて年間56万人泊の需要を設定し、稼働率を勘案の上、必要宿泊室数を1275室と算定している。」

   としている。

    沖縄県と沖縄市は、同書において、現計画(埋立必要理由書記載の土地利用計画のこと)の需要なるものは、便宜的な方法によって作出したものであること、また、平均滞在日数5.27泊も単なる目標値であることを自白しているのである。

    埋立必要理由書に全く根拠がないことはこの記載からしても明かである。

 (2)同書は、さらに続けて、

   「 しかし、昨今の観光パックツアー等の実情では、1回の旅行で複数の県内観光地に宿泊する場合も多く、単に入域観光客数に平均滞在日数を乗じて年間宿泊需要を算出する従来の方法は、必ずしも観光の実態に即したものとは言えない面がある。

     このため、今回の確認作業においては、宿泊施設用地規模の算定に直接関連する年間宿泊需要56万人泊及び宿泊施設計画室数1275室を対象として検証することとする。」

   としている。

    ここでは、沖縄県と沖縄市は、埋立必要理由書にて需要を推計した手法をもはや放棄してしまっている。埋立必要理由書にて為した需要の推計が時間的経過を踏まえても正しいか否かを再確認するのが主目的であるのであるから、埋立必要理由書にて需要を推計した手法に時的要因(時間が経過したことから生じた要因)を加味して再検証するという手法が本来とるべき手法のはずである。

    埋立必要理由書にて需要を推計した手法の再検証をすることなく、全く別の手法で検証すると言うこと自体が非常に詐欺的である。

    その検証の中身についても、同書では、56万人泊及び宿泊施設計画室数1275室については努力すれば実現の可能性はあるとの論調に終始するだけで、どのようなデータに基づきどのような宿泊需要があるため、56万人泊及び宿泊施設計画室数1275室という規模の宿泊施設を建設する必要があるのかという検討は全くなされていない。

    同書の理屈によれば、極端な話56万人泊が60万人泊であっても70万人泊であっても、また宿泊施設計画室数1275室が1500室であっても1600室であっても同様の論調で、努力すれば実現の可能性はあると言い切ることが可能である。

    同書の検証なる作業は全く意味がない。

 (3)この点、同書の検証に対し、沖縄県包括外部監査人弁護士大城純市による、平成16年度「包括外部監査結果報告書」(甲26)では、

   「A 土地利用上の疑問点

      本事業は、集客性の高い観光・リゾートや商業などの都市機能が集積した拠点地区の形成を目指しているが、当該地区は観光・リゾート地の成立要件を満たしているのかが問題とされている。

      沖縄市が、現在、観光・リゾート面からみて通過点となっているのは、観光・リゾート地としての魅力に欠けるからではないかとも考えられる。そのような地区にリゾートホテルを建設したからといって、宿泊客がどの程度増えるかは未知数である。

      宿泊施設が西海岸に立地するのは、観光・リゾート業界にとっては必然性があり(例、サンセットの魅力)、東海岸に立地するのは余程の風光明美なロケーションでないと難しい。

      しかるに、当該地は埋立地であり、東北側には加工物流港を中心に展開しようとする新港地区がある。南西側には西原地区の工業団地等があり、風光明美とは言えない。」

   「@ 現計画における「海洋性レクリエーション拠点」「国際交流リゾート拠点」形成の根拠が明確でない。

     ア 泡瀬地区年間宿泊需要及び宿泊施設計画実数についての検討によると、『泡瀬地区に計画どおりの観光客誘客が可能か否かは、今後の関連施設整備等、企業立地環境の整備に向けた地元の取り組みや立地企業の営業努力に負うところが大きいが、地域を挙げた受け入れ体制の整備により、昭和59年以降、県全体の宿泊需要に対する比率を大幅に増大させてきた宮古地区の事例からも、泡瀬地区においても地元の努力によって観光・リゾート地の形成は可能であると考えられる。』としているが、あまりに希望的観測が強いのではないだろうか。」

   「 イ 現計画において、年間宿泊需要56万人泊及び宿泊施設計画数1275室を前提とした土地利用計画を立てているが、その根拠が不十分であり、「宮古・石垣・名護でできたから沖縄市でもできるはずだ」という安易な根拠になっていないか。

       企業立地も進まず埋立地が放置された状態になっている地区が県内に存在することも周知の事実である。

       そのような状態を勘案してみると、当該計画の需要予測は甘く、事業計画の見直しが必要である。」

   「B 土地利用の実現化方策について

      土地利用計画については、需要が見込めるものとして、その実現に向けては県と沖縄市が連携して取り組むものとしている。

      具体的には、@ 地域魅力向上、A段階整備、B企業立地環境整備を挙げているが、いずれも抽象的表現で、具体的な施策が検討されていない。

      このような状況で約491億円の事業費を投入すべきか、再検討が求められる」    

     などの痛烈な批判がなされているところである。

 (4)上記の監査結果に対し、被告沖縄県知事は

    「包括外部監査結果に対する県の対応については、地方自治法252条の38第6項に基づき県の公報において、近く公示する予定である。」としている(被告沖縄県知事準備書面(4)「第2、6」)。

    しかし、公報によっても、

   「平成14年に県及び沖縄市において実施した土地利用需要予測の確認作業については、各種地域振興施策等の検討状況等を考慮し、総合的に需要予測を検証した結果であり、十分な根拠を有していると認識しているため、適正な需要予測であると考えている。」(甲67:沖縄県公報21頁)とあるだけで、監査結果が指摘する疑問点について、明確な根拠を示した上での応答は全く為されていない。

 6 沖縄市の財政負担(甲49、川瀬)

 (1)本件埋立事業と中部圏経済の活性化等について

  ア 本件埋立事業は、「国際リゾート拠点の形成」「海洋リクレーション活動拠点の形成」を目指していること、本件事業の土地利用計画においても宿泊施設用地と観光商業施設用地の割合が高いことを考えると、被告らは、こうした宿泊・集客施設を誘致することで「本島中部経済圏の活性化及び新たな雇用を確保」し、「沖縄県の均衡ある発展」を目指そうとしていると考えられる。

  イ しかし、現状では,沖縄県の宿泊施設は那覇市を中心とする南部地域と名護市、恩納村などの北部に集中しており、沖縄県本島の収容人員約5万人の内、中部圏は1万人弱、沖縄市は1500人(約3%)でしかない(甲124−表1、川瀬尋問調書1、2頁)。

    これは、今まで沖縄市に宿泊の需要があったが、偶々宿泊施設がなかったため宿泊者が少なかったということではない。元々沖縄市に宿泊の需要が少ないためである。需要があれば今までにも多くの宿泊施設が作られているはずである。

    那覇市や名護市、恩納村等は、空港に近いという利便性や観光・リゾート地としての魅力によって宿泊客の需要がある。しかし、沖縄市には那覇市、名護市、恩納村に比べてリゾート地としての魅力が乏しく、人工の埋め立て地を形成して宿泊施設を誘致しようとしても、那覇市や恩納村を上回る魅力ができるとは考えられない(甲26:1−76頁)。

    昨今のエコツアーや自然を生かした観光の流れを見ると、観光地としての魅力としては泡瀬干潟を残す方がはるかに魅力的である(川瀬尋問調書2、3頁)。

    従って、本件埋立事業を行っても宿泊施設が誘致される見込みは少なく、仮に宿泊施設が作られたとしても、多くの宿泊客で賑わう可能性は少ない。

    よって本件埋立事業等によって本島中部圏経済の活性化及び新たな雇用を確保することで沖縄県の均衡ある発展に寄与することはあり得ないのである。

  ウ このようにリゾート地としての魅力に乏しく、リゾート客の宿泊の需要が少なくても、いわゆる格安パックなど宿泊単価を低額化することで宿泊客を誘致する方法がある。

    しかし、この方法による集客は沖縄県全県ですすんでおり、観光客数だけ見れば1976年と2001年を除いて順調に伸びており、2005年には550万人に達しているが、一方、2001年頃から観光収入は頭打ちであり、観光客一人当たりの消費額についても、ピーク時の9万円(1998年)に比べ現在は2万円近くも減少している(川瀬尋問調書4頁、甲124:図2)。

    このように価格競争が激しい中で、競争力の劣る沖縄市に立地する宿泊施設に宿泊客を集めようとすれば、一層の低価格路線に打って出ざるを得なくなり、それでは一時的に成功しても持続性に乏しく、「均衡ある発展」に寄与するとは考えられないのである。

  エ 更に、市中心部から離れた所に新たな用地を造成し施設を誘致しようとする施策は、市経済の発展にとってマイナスとなる可能性が高い。

    沖縄市の産業構造は、下記のとおりサービス業と卸売り、小売業飲食店の比重が高く、事業所数の約82%、従業員数の74%を占めている。そしてその多くが従業員数29人以下の零細な事業所である(甲50、川瀬尋問調書5、6頁)。

 

 

総数

サービス業

卸売・小売業飲食店

事業所数

6983

2250

3464

従業員数(人)

4万4400

1万6512

1万6344

 

    現在、沖縄市でも中心市街地のいわゆる“シャッター通り化”が著しく、2005年12月現在の沖縄県商工課の調査によると沖縄市の空き店舗率は16.3%である(甲51、甲125、川瀬尋問調書5、6頁)。

    本件事業が推進され新たな商業施設が泡瀬地区に立地された場合、沖縄市中心市街地への人の流れが一層縮小することになり、さらなる中心市街地の衰退を招きかねない(川瀬6〜7、14〜15、20〜21頁)。

    このような危険性は、平成12年の埋立免許承認当時、既に予測できたことである(川瀬6、7頁)。

    なお、被告らは、沖縄市中心地と泡瀬地区の両立を主張するが、10万人程度の人口しかない沖縄市において、両地域が両立できないことは明らかである(川瀬尋問調書14〜15、20〜21頁)。

 (2)本件埋立事業の沖縄市財政へ及ぼす危険性について

  ア 約184億円が埋め立て地の購入費用として予定されているが、この184億円という金額は、沖縄市の地方債残高約402億円の約46%、税収約97億円の約2倍、歳出総額412億円の約45%に当たる金額であり(いずれも2004年度)、沖縄市にとって極めて負担の大きな金額であることは明らかである(川瀬尋問調書7〜8頁、甲124:図3,4)。

沖縄市の財政状態を見ると、地方債残高が年々増加しており、90年度には161億6254万円であったのが、2004年度には402億58万円と2倍以上に増加している(川瀬尋問調書7〜8頁)。

イ また、標準財政規模(標準税収入額に普通交付税額を加えたもので、自治体が自由に使える金額を意味する。)に対する地方債残高の比率をみると2002年度―148.2、2003年度―201.5というように、1.5倍になっている。

すなわち、わずか1年間の間に、標準財政規模に対する地方債残高の比率が1.5倍にもなっているのである(川瀬尋問調書8、20頁)。

このような状況で、標準財政規模の2倍以上の地方債残高があるということは、現状でも決して楽観できる財政状態ではない(川瀬尋問調書7〜8、15頁)。

ウ 歳出面における沖縄市財政の最大の特徴は、性質別歳出における扶助費の比重が高いこと、繰出金が年々増加していることである(川瀬尋問調書8〜10頁、甲53)。

扶助費の比重が高いのは生活保護費の増加によるところが大であり、繰出金の増加は国民健康保険事業と介護保険事業、老人保険事業への繰出金の増加によるものである。この結果、目的別歳出でみると民生費が38.8%(2004年度)もの比重を占めることになっている(川瀬尋問調書8〜10頁)。

エ 上記のとおり、本件開発事業が失敗し、埋立地の購入費を沖縄市の一般会計で負担することとなった場合、沖縄市は財政再建団体になる可能性が高い。その場合、生活保護等市の福祉サービスに依拠している住民に多大な影響を及ぼすことになる(甲53、川瀬尋問調書8〜10頁)。

本件事業を中止しても市の存続や市民生活に直接影響することはないが、本件事業を推進して失敗した場合、福祉サービスの切り下げはそれに依拠している人々の生活基盤を失わせかねない(川瀬尋問調書8〜10頁)。

   このような危険性は、平成12年の埋立免許承認当時、既に予測できたことである(川瀬10頁)。

 7 小括

   以上より、本件埋立事業の土地利用計画において主要な柱となっている4つのコンベンションホテル・リゾートホテル、1コンドミニアム、1コテージについての埋立必要理由書にてなされている宿泊需要の予測は全くの出鱈目であり、その余の土地利用計画のうち、少なくとも「海洋研究施設用地」、「栽培漁業施設用地」、「生涯学習センター用地」については架空の利用計画と評価せざるを得ないものである、そして、そのような用地で新規に創出される雇用に対する就業者を当て込んだ住宅用地の需要(甲133)についても出鱈目と評価せざるを得ず、このような出鱈目な埋立必要理由書記載の土地利用計画を目的とする本件埋立事業・東部海浜開発事業が、公有水面埋立法4条1項の「国土利用上適正且合理的ナルコト」との要件を欠き、また、地方自治法、地方財政法の規定から要求される、経済的な合理性を欠くものであることは明白である。

   そして、以上に述べたような出鱈目さを全く看過してなされた本件埋立免許・承認には、単なる違法というにとどまらず、重大かつ明白な違法があることは明かである。

 

第10章 本件埋立事業に伴う沖縄県の債務負担行為および支出行為

 

第1 本件埋立事業の事業費

   本件埋立事業の事業費は460億円を超えるものと予定されている。

 

第2 沖縄県の既支出額

 1 沖縄県からは、既に、

 (1)平成12年度には、本件埋立事業費として金20億0240万8834円

    平成13年度には、本件埋立事業費として金2487万7996円

    平成14年度には、本件埋立事業費として金1656万4378円

    平成15年度には、本件埋立事業費として金712万9500円

   が支出されている。 

 (2)また、

    平成16年度には、本件埋立事業費として金2億2000万円が予算計上され相当な額が支出されている。

    平成17年度には、本件埋立事業費として金2億6630万1000円が予算計上され相当な額が支出されている。

 2 沖縄県・沖縄市の公金支出の確実性と債務負担行為の確実性

   沖縄県と沖縄市は、平成15年3月28日付協定書(甲7)にて、将来、国が埋め立てた埋立地を沖縄県が国から購入した後、さらにこれを沖縄市が沖縄県から購入することを約束しており、国と沖縄県は、埋立地を国が沖縄県に売却するとの処分方法を前提として、現在も埋め立て工事等を継続している。

   したがって、沖縄県が本件埋立事業を、沖縄市が東部海浜開発事業をそれぞれ継続し、沖縄県が国から埋立地を相当額にて購入する、沖縄県が沖縄市に対し同埋立地の一部を売却する、沖縄県において埋立地の基盤整備事業等を推進する、沖縄市も購入後の土地の基盤整備自用等を推進するなどの債務負担行為をなし、公金が支出されることは、相当の確実性をもって予想される。

   なお、「序章」において述べたとおり、被告沖縄市市長東門美津子氏は「第一区域については、工事の進捗状況からみて、今後の社会経済状況を見据えた土地利用計画の見直しを前提に推進せざるを得ない」A「事業着手前である第二区域については、推進は困難、具体的な計画の見直しが必要」との考えを表明している(甲130〜131の13)が、現在も埋立工事等は継続されており、甲7の協定書の内容が破棄されたり、変更されたという事情は存せず、本件埋立事業・東部海浜開発事業における、沖縄県・沖縄市の債務負担行為、公金支出が、相当の確実性をもって予想されることに変わりはない。

 3 予算執行権限者

 (1)既支出分について

    債務者稲嶺惠一は、本件埋立事業費の債務負担行為及び支出命令がされた当時、沖縄県知事の職にあったのであるから、関係法令に基づき予算執行の適正を確保すべき財務会計法規上の義務を沖縄県に対し負担していたものであり、また、債務負担行為及び支出命令の権限が他者に委任されていたとしても、本来的権限者として、受任者を指揮監督すべき立場にあったものであるが、この義務に違反して上記の権限を行使した。

    なお、原告らが損害賠償請求の履行を求めている損害金20億円の内訳は以下のとおりである(原告ら準備書面(13)「1」)。

    被告沖縄県知事準備書面(11)別紙中城湾港(泡瀬地区)臨海土地造成事業特別会計支出内容一覧表中

  @ 平成12年度 漁業補償費

       19億9800万円の内金19億1831万6550円

  A 平成12年度 中城湾港泡瀬地区企業立地基礎調査

       1186万5000円

  B 平成13年度 土地処分形態調査

        689万8500円

  C 平成13年度 泡瀬地区環境監視調査業務委託

       1224万3000円

  D 平成14年度 泡瀬地区環境監視調査業務委託

       1155万円

  E 平成15年度 中城湾港(泡瀬地区)企業用地周辺環境資料作成業務委託

        712万9500円

  F 平成16年度 中城湾港(泡瀬地区)環境調査業務

       2999万7450円

  の合計20億円。

 (2)将来の支出分等について

  ア 被告沖縄県知事は、沖縄県の公金支出、財産の管理もしくは処分、契約の締結、もしくは履行し、債務その他の義務を負担するなどの行為をなすにつき最終権限を有するものである。 

  イ 被告沖縄市長は、沖縄市の公金支出、財産の管理もしくは処分、契約の締結、もしくは履行し、債務その他の義務を負担するなどの行為をなすにつき最終権限を有するものである。

 

第11章 地方自治法・地方財政法上の違法性

 

第1 地方自治法2条14項・地方財政法4条1項違反

   「地方自治行政の基本的原則」等を定めた地方自治法2条14項は、「地方公共団体は、その事務を処理するに当たっては、住民の福祉の増進に努めるとともに、最少の経費で最大の効果を上げるようにしなければならない。」と規定している。

   この「最少の経費による最大の効果」の原則を予算執行の立場から表現した規定が地方財政法第4条であり、その第1項は、「地方公共団体の経費は,その目的を達成するための必要かつ最少の限度をこえてこれを支出してはならない。」と規定している。

   しかし、前述したとおり、本件埋立事業及び東部海浜開発事業が経済的な合理性を欠いているものであることは明らかである。

   よって、本件埋立事業及び東部海浜開発事業は、地方自治法2条14項、地方財政法4条1項に反する。

 

第2 沖縄県知事に対する損害賠償請求の履行等

   したがって、本件埋立事業に関する財務会計上の行為は、地方財政法4条1項、地方自治法2条14項に違反しており、本件埋立事業のための債務負担行為は無効であり、無効な債務負担行為に基づく既支出分については違法な支出であり、沖縄県知事は、当該支出につき、その当時の沖縄県知事である債務者稲嶺惠一に対し少なくとも金20億円につき損害賠償請求をしなければならない。

   また、本件埋立事業に関して、沖縄県(最高執行権限者沖縄県知事)による、国の埋立地を購入する契約の締結を含む一切の債務負担行為及び一切の公金の支出等は違法であり、差し止められるべきである。

 

第3 沖縄市の行為の差し止め

   上記第1のとおりであり、東部海浜開発事業に関して、沖縄市による、沖縄県が購入した国の埋立地を沖縄県から購入する契約の締結を含む一切の債務負担行為及び一切の公金の支出は違法であり、差し止められるべきである。

 

第12章 公有水面埋立法違反

 

第1 公有水面埋立法4条1項1号違反

   前述したとおり、本件埋立事業は国土利用上適正且合理的といえない。

 

第2 公有水面埋立法4条1項2号違反

     前述したとおり、本件埋立事業に関する環境影響評価手続が適正に実施されておらず、かつ、本件埋立事業について環境保全に十分な配慮がなされたとはいえない。

 

第3 公有水面埋立法4条1項3号違反

本件埋立計画海域は、環境省指定にかかる「重要湿地500選」に指定される重要な干潟であり、また、沖縄県「沿岸域における自然環境の保全に関する指針(沖縄島編)」において、「自然環境の厳正な保護を図る区域」である評価ランクT及び「自然環境の保護・保全を図る区域」である評価ランクUに位置づけられている。

これらは直接的な法律や条令による指定ではないが、前者は環境基本法に基づく環境基本計画上の一施策であり、後者は沖縄県環境基本条例(平成12年4月1日施行)により沖縄県が推進する自然環境保全の施策の一つであり、いずれも法律や条令に根拠を有している。

しかも、前記の通り同海域は各種法制度により保全が計られなければならない海域であることは明らかである。

これらからは、本件埋立事業による埋立地の用途が環境保全に関する国の法律に基づく計画に違背しないとの要件を欠くというべきである。

 

第4 財務会計上の行為の違法性

 1 財務会計上の行為の違法性について

   上記第1〜第3より、公有水面埋立法4条1項1号ないし3号に違反してなされた公有水面埋立免許・承認には違法もしくは重大かつ明白な違法があり、公有水面埋立法に違反する本件埋立事業に関する財務会計上の行為も違法となる。

 2 違法性の承継について

    被告沖縄県は、本件において、公有水面埋立の免許・承認に重大かつ明白な違法がなければ、これを原因としてこれに続く財務会計上の行為が違法となるわけではない旨主張している。しかし、被告沖縄県が主張するような「重大かつ明白な違法」という要件は不要である。

 (1)確かに、被告沖縄県引用の松山地方裁判所昭和63年11月2日判決は、「公金支出の原因となる非財務会計上の行為に重大かつ明白な違法がある場合には、支出自体に固有の違法性は認められないときでも差し止めが許されると解すべきである。」旨判示している。

  (2)しかし、同判決については、その後、控訴審(高松高裁平成3年5月31日判決:判例時報1389号38頁以下)、上告審(最高裁平成5年9月7日判決:判例時報1473号38頁以下)でも審理されたが、当該控訴審でも上告審でも「重大かつ明白な違法性」が必要となるか否かの判断には踏み込んで判断をしておらず、控訴審、上告審では、被告沖縄県が主張するような基準は一切示されていない。

    さらに上告審からの差し戻し後の控訴審においても、同じく「重大かつ明白な違法性」が必要となるか否かの判断には一切踏み込んでおらず、ここでも被告沖縄県が主張するような基準は一切示されていない。

 (3)むしろ、上記(1)の判決については、「もっとも、本判決が示した右判断基準が公金の支出の差止めを求める住民訴訟のすべての場合において妥当する基準たり得るか否かについては、今後さらに検討が重ねられる必要があるように思われる。すなわち、本判決も指摘するような住民訴訟の趣旨・目的からすれば、住民訴訟においては、その違法性が問題とされている当該職員の財務会計上の行為が、地方自治体に対する関係で違法と評価されるべきものかどうかが問われるべきことになろう。そうであれば、原因行為に違法がある場合に、財務会計上の行為も違法と評価できるか否かの問題についても、原因行為に違法がある場合に、財務会計上の行為をなす当該職員は、地方自治体に対する関係でどのような行為をすべき義務(職務上の義務)を負っているかという観点からの検討が必要であるように思われる。そのような観点からみれば、例えば、当該職員が、違法な原因行為を自ら是正する権限を有するにもかかわらず、これを放置してまま公金の支出をした場合でも、原因行為の違法が重大かつ明白でない限り、公金の支出が違法とはならないといえるのかについては、疑問をいれる余地があるのではないだろうか。」との指摘が為されているところである(判例時報1295号27頁以下)。

 (4)この点、本件と同じく「公有水面埋立の免許が違法であり、同免許に基づいてなされる本件埋立行為も違法なものである」として、同埋立工事にかかる公金支出の差し止めを求める住民訴訟(佐志浜埋立公金支出差止請求事件)において、佐賀地方裁判所平成11年3月26日判決(判例自治191号60頁以下)は、「地方自治法242条の2所定の住民訴訟は、普通地方公共団体の執行機関又は職員による同法242条1項所定の財務会計上の違法な行為等が究極的には当該地方公共団体の構成員である住民全体の利益を害するものであるところから、これを防止するため、地方自治の本旨に基づく住民参政の一環として、住民に対しその予防または是正を裁判所に請求する権能を与え、もって地方財政行政の適正な運営を確保することを目的としたものである(最高裁昭和53年3月30日民集32巻2号485頁)ところ、差止対象たる財務会計上の行為の原因となる行政行為に違法な瑕疵があり、かつ、右財務会計上の行為の主体(支出機関)が右原因行為たる行政行為の主体(処分庁)に対して、当該行政行為の取消等を求め得る立場にあるのに、これを経ないでなされる右財務会計上の行為は、右処分庁が当該行政行為の取消権をもはや行使できないなどの特段の事情がない限り、それ自体違法性を帯びるものと解するのが相当である(最判昭和60年9月12日:判例時報1171号62頁、最判平成4年12月15日民集46巻9号275頁参照)。」との基準を示している。

 (5)本件では、本件埋立事業の免許・承認権者は、公有水面埋立法2条1項、港湾法58条2項、2条1項、33条により、港湾管理者である被告沖縄県の長たる沖縄県知事である。

    そして、同じく被告沖縄県の長たる沖縄県知事には、公有水面埋立法32条1項等により、免許・承認の取消権が与えられている。

    したがって、本件においては、上記基準にある「対象たる財務会計上の行為の原因となる行政行為に違法な瑕疵があり、かつ、右財務会計上の行為の主体(支出機関)が右原因行為たる行政行為の主体(処分庁)に対して、当該行政行為の取消等を求め得る立場にある」という要件を充足することから、これを経ないでなされる財務会計上の行為は、それ自体違法性を帯びることとなるのである。

 (6)なお、その他被告沖縄県知事がこの争点について引用する諸判例に対する反論は、原告ら準備書面(13)「3」のとおりである。

 

第5 前沖縄県知事に対する損害賠償請求の履行等

 1 前沖縄県知事に対する損害賠償請求

   原告らは、前沖縄県知事稲嶺惠一個人に対する損害賠償請求の履行を求めている。

 (1)上記は、「当該行為」を行った「当該職員」としての前沖縄県知事稲嶺惠一個人に対する損害賠償請求である。

 (2)上記「当該行為」については、被告沖縄県知事準備書面(11)別紙中城湾港(泡瀬地区)臨海土地造成事業特別会計支出内容一覧表記載の各支出負担行為、各支出命令のいずれをも対象としている。

 (3)同表によると、各支出負担行為、各支出命令の決裁者は、港湾課長もしくは中城湾建設事務所長となっている。しかし、上記支出負担行為及び支出命令の権限を法令上本来的に有するのは、中城湾港の港湾管理者である被告沖縄県の当時の長であった前沖縄県知事稲嶺惠一であり、損害賠償請求の相手方となる「当該職員」については、「当該訴訟においてその適否が問題とされている財務会計上の行為を行う権限を法令上本来的に有するとされている者及びこれらの者から権限の委任を受けるなどして右権限を有するに至った者を広く意味する」とされているのであり(最判昭和62年4月10日判決、判例時報1234号31頁)、法令上の本来的権限者である前沖縄県知事稲嶺惠一を「当該職員」として損害賠償請求の履行を求めることに何ら問題はない。

 (4)なお、上記の場合前沖縄県知事稲嶺惠一個人が損害賠償責任を負う要件として、専決もしくは委任により各支出負担行為もしくは各支出命令を為した職員に対する指揮監督上の帰責事由が必要であるとされている(最判平成3年12月20日、判例時報1411号27頁)。

    しかし、本件埋立事業には原告ら主張のような違法が存し、そのためこの違法性は後行行為である各支出負担行為、支出命令という財務会計上の行為に承継され(もしくは当該財務会計上の行為自体が違法性を帯び)ているのである。

    本件埋立事業を遂行するために不可欠となる違法な免許、承認という行為を自らなし、本件埋立事業を監督する権限(公有水面埋立法32条等)を自ら有し、本件埋立事業の実施主体である被告沖縄県の長であった前沖縄県知事稲嶺惠一は、本件埋立事業が違法であることを当然承知しており、もしくは違法であることを容易に知ることができたのであり、その場合、違法な本件埋立事業のために必要となる各財務会計上の行為も違法となることを当然承知しており、もしくは違法となることを容易に予見できた。にもかかわらず、自らが有する指揮監督権限を適切に行使することなく、各財務会計上の行為を漫然となさしめていたのであり、前沖縄県知事稲嶺惠一には、違法な財務会計上の行為をなさした指揮監督上の義務違反が認められる。

 (5)したがって、違法な債務負担行為に基づく既支出分については違法な支出であり、沖縄県知事は、当該支出につき、その当時の沖縄県知事である債務者稲嶺惠一に対し少なくとも金20億円を下らない金額につき損害賠償請求をしなければならない。

 2 債務負担行為及び公金の支出等の差し止め請求

   また、上記第1〜第4からすれば、本件埋立事業に関して、沖縄県(最終執行権限者沖縄県知事)による、国の埋立地を購入する契約の締結を含む一切の債務負担行為及び一切の公金の支出等は違法であり、差し止められるべきである。

 

第6 沖縄市の行為の差し止め

   上記第1〜4のとおりであり、違法・無効な免許・承認に基づき埋立られた違法な埋立地を購入することを前提とする沖縄市の東部海浜開発事業もまた違法もしくは重大かつ明白な違法を有するものと言わざるを得ない。

   したがって、東部海浜開発事業に関して、沖縄市による、沖縄県が購入した国の埋立地を沖縄県から購入する契約の締結を含む一切の債務負担行為及び一切の公金の支出は違法であり、差し止められるべきである。

 

第13章 国の債務不履行責任ないし不法行為

 1 本件埋立事業については、国の機関である総合事務局が事業者として行った環境影響評価手続に基づいて公有水面埋立の免許・承認がなされている。同環境影響評価手続における予測、評価では本件埋立事業による自然環境への影響は少ない旨の結果となっているが、この環境影響評価手続における調査、予測、評価の仕方は極めて杜撰であった。総合事務局は沖縄県に対し、信義則上、誠実に環境影響評価手続における調査、予測及び評価を実施する義務が存するが、沖縄総合事務局にはこの義務に違反した重大な過失があり、杜撰な環境影響評価手続により免許・承認権者である沖縄県知事の審査につき誤った環境情報を提供してその判断を誤らせ、沖縄県に対し本件埋立の免許を与えさせ、その事業について公金を支出させ、もって沖縄県に同額の損失を与えた。

 2 よって、沖縄県は国に対し、沖縄県が本件埋立事業に関して支出した公金相当額のうち少なくとも金20億円を下らない金額について国家賠償に基づく損害賠償請求権を有している。

 

第14章 結論 

  泡瀬干潟は、沖縄随一の豊かな自然環境が残されている、かけがえのない干潟であり、本件訴訟に提出した証拠によっても、地球規模での貴重性がいよいよ明確になってきている。

  他方で、本件埋立計画は、かつて全国で手がけられ、ことごとく破綻したバブル経済時代の開発計画と全く同様であり、時代錯誤的な計画であるが、本件埋立が実施されるならば、泡瀬干潟の自然環境に回復不能な影響を与えることとなる。

  そして、本件埋立計画は、杜撰かつ違法な環境影響評価手続がなされ、適正な環境配慮がなされていないこと、これに対する被告沖縄県知事の審査も適正になされていないこと、本件埋立計画の根拠である新港地区東埠頭浚渫等の整備に緊急性・必要性が認められないこと、リゾート施設等建設の根拠とされている観光客宿泊施設需要増加の予測が著しく過大であること、埋立地の購入を予定している沖縄市の財政が危機的状況に陥るおそれがあることなどから、本件埋立に対する免許・承認は違法であり、埋立のための沖縄県の財務会計行為や、沖縄市の埋立地の購入のための財務会計行為は違法といわざるを得ない。

  よって、本請求は速やかに認容されるべきである。