11月5日の馬淵大臣要請(対応、末松副大臣)の報告

前川盛治(泡瀬干潟を守る連絡会・事務局長)

 

1.        新聞報道

 

http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-169809-storytopic-1.html

 

2.       大臣要請文

2010年11月5日

内閣府沖縄担当大臣 馬淵澄夫 様

 

沖縄県沖縄市の「東部海浜開発事業」(土地利用計画沖縄市案)への対応についての要請

 

                泡瀬干潟を守る連絡会 共同代表 小橋川共男 漆谷克秀

                        連絡先 前川盛治(事務局長)

                        住所:沖縄県沖縄市字古謝1171−3 

                        電話:090−5476−6628

                        FAX:098−939−5622

 共同要請:WWFジャパン、(財)日本自然保護協会、(財)日本野鳥の会、

NPO法人/ラムサール・ネットワーク日本、泡瀬干潟を守る東京連絡会

 

さる8月3日、沖縄県沖縄市の東門美津子市長より提出された「東部海浜開発事業」(土地利用計画沖縄市案)に対し、前原沖縄担当相(当時)は、その場で了承し、泡瀬埋立事業を進めることを記者会見で表明しています。私たちは、このような事態の急変に、大変驚いています。

 この前原前大臣の対応は、これまでの民主党の政権公約(マニフエスト)に照らしても齟齬があり、国民・県民・市民の理解が得られるとは思えません。何故そのような対応になったのか、具体的、且つ合理的に国民へ説明する責任があると思われます。そして、控訴審判決に従い「相当程度に手堅い検証」を行うために、広く国民から意見を聞き、自然環境保全の政策に生かすべきだと考えます。

さらに10月17日〜29日には、日本が議長国となり生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)が開かれました。議長国の責任を果たし、生物多様性の宝庫、泡瀬干潟を守るためにも、下記を要請いたします。

ご高配をよろしくお願いいたします。

 

1.緊急要請

 

(1)沖縄市案について再考し、控訴審判決に従い、再度、相当程度に手堅い精査・検証を行うために、事業再開を「保留」すること。泡瀬干潟埋立問題について、幅広く国民の意見を聞き、今後の自然環境政策に生かすこと。

(2)次年度の概算要求に、泡瀬埋立事業の予算を計上しないこと。

(3)環境省が、2010年9月30日、泡瀬干潟等をラムサール条約登録候補地に選定していることから、泡瀬干潟を保全し、環境省、沖縄市と登録の協議・手続きを行うこと。

 

2.明らかにして欲しいこと

 

(4)これまで行われてきた泡瀬干潟埋立事業(1区・2区)の国支出金額は、国事業費308億円の内、219億円である。新しい沖縄市案は面積が半分になったのに、新たな国建設投資額(埋立に係る費用)357億円は理解できない。詳細を明らかにすること。

(5)沖縄市事業に対する国庫負担分125億円は、支出することを確約されているのか、明らかにすること。

(6)沖縄県事業306億円に対する国庫負担分を明らかにすること。

(7)国財政が厳しい時、疑問の多い事業に、国負担(予想634億円)の支出が妥当なのか、説明すること。

(8)提出された沖縄市案を数ヶ月に渡って何度もつき返したとあるが、当初の沖縄市案のどの部分がブラッシュアップされたのか、経緯を明らかに示すこと。また沖縄県の有識者からも意見を聞いたとあるが、その有識者の氏名を公表すること。

以上 

【参考までにこれまでの政権公約、泡瀬干潟政策、今回の決定の問題点を指摘します】

政権公約等

1.政権公約・マニフエスト: 「コンクリートから人へ・・・ 無駄な公共事業を中止する」

2.民主党政策集インデックス2009・環境調和型公共事業:

諫早湾干拓事業や吉野川河口堰改築事業、泡瀬干潟の干拓事業など環境負荷の大きい公共事業は、再評価による見直しや中止を徹底させます。

3.民主党・沖縄ビジョン(2008):

泡瀬干潟埋立事業は、特別自由貿易地域(FTZ)新港地区の浚渫土砂の受入れ場としての事業となっており、港湾事業と共に計画を見直す必要がある。現在、FTZ 新港地区の分譲用地に立地している会社は僅か6社で、・・・・分譲率は僅か2.1%であり、計画は頓挫。また、干潟の保全により沖縄の海を守ることは観光振興においても不可欠の要素である。・・・「埋立事業中止」を含めて「一期中断、二期中止」など見直す。

政権発足直後の泡瀬干潟政策

政権発足直後の2009年9月には、前原沖縄国土交通大臣(当時)は、「(東部海浜開発事業)1区中断・2区中止」を表明し、今後は、泡瀬裁判の控訴審の結果も見ながら対応するとしていました。

そして、2010年3月の参議院沖特委では、「泡瀬埋立事業と新港地区東埠頭浚渫とはリンクさせない」「(沖縄市案が提出されたとき)経済合理性があるかどうか、厳しくチェックし対処する」と答弁されていました。 

問題点

1.             控訴審(2009年10月15日)は、「泡瀬干潟埋立事業に経済的な合理性はない、公金を支出するな」でしたが、判決ではまた、「新たな土地利用計画に経済的合理性があるか否かについては、従前の土地利用計画に対して加えられた批判を踏まえて、相当程度に手堅い検証を必要とする」とも指摘しています。今回の前原大臣の対応は、判決の趣旨に合いません。

2.             8月6日の記者会見では「数ヶ月にわたって、何度も突き返し、有識者の方々からの意見を加味する中で、更なるブラシュアップをお願いした」と説明していますが、内容が明らかでなく、説明責任を果たしておりません。

3.             「干潟の消失面積が泡瀬干潟全体の2%未満に留まることは理解」として、環境への影響が少ないかのように評価していますが、それは誤解と思われます。1区域は、豊かな海草藻場、サンゴ群落、新種・貴重種・絶滅危惧種の生息場所であり、1区の埋立で自然環境が破壊され、周辺海域の環境が劣化していることは、日本自然保護協会、泡瀬干潟を守る連絡会等の調査でも明らかです。干潟とそれに続く浅海域(1区)が一つの生態系をなし、干潟の浄化機能、環境保全がなされていることは、科学的な常識です。環境省は、9月30日にラムサール条約登録湿地の候補地として、泡瀬干潟等全国から172箇所を選定しています。泡瀬干潟は、国際基準9の内4つの基準を満たす種の多様性の宝庫です。

4.             提出された沖縄市案を、「需要予測や施設規模については堅めの想定がなされている、雇用や生産の面で相応の開発効果が期待されている、将来の市財政への影響も一定範囲に留まることが分析されている」と評価しているが、沖縄市案は、市民への説明も一切なく、市議会や市長選で東門氏を支えた4党との協議もなく、一方的に大臣に提出されました。地元マスコミでも「経済的合理性があるかどうかの検証がなされていない」と指摘され、県内の有識者からも経済的合理性について疑問の声が多く、肯定的な意見はありません。

5.             国交省は、全国の103の重港湾から42港を重点港に指定する作業を進め、2010年7月末の時点で、「中城湾港」は除外で確定していました。しかし、沖縄県知事の要請で、「中城湾港」が重点港に復活しました。この経過には、普天間基地の辺野古移設とのかかわりが指摘され、疑問が抱かれています。

6.        沖縄市案の問題点は、別紙「沖縄市案に経済的合理性の無いこと 泡瀬干潟を守る連絡会の見解 2010年9月24日」をご参照下さい。                              

 

3.       参加者、大臣答弁

●末松・沖縄担当副大臣との面談   11月5日(金)16時〜17時   内閣府中央合同庁舎4号館

●末松義規・沖縄担当副大臣
 
中野則夫・内閣府沖縄振興局参事官、他に内閣府官僚数名(後日、当局よりメール連絡の予定)
 
大河原雅子・公共事業チェック議連事務局長、&塩田秘書
 
●NGO側
 1.
前川盛治(泡瀬干潟を守る連絡会) 2.島袋 和(泡瀬干潟を守る連絡会) 3.草刈秀紀(WWFジャパン) 4.開発法子(日本自然保護協会)
 5.
古南幸弘(日本野鳥の会) 6.松元裕之(泡瀬干潟を守る東京連絡会) 7.竹川未喜男(泡瀬干潟を守る東京連絡会) 8.陣内隆之(ラムサール・ネットワーク日本)

 

冒頭、前川さんから添付の要請書を副大臣に手渡し、引き続いて前川さんから概要を説明しました。これに対する末松副大臣の回答は以下のとおり。

(副大臣が同席したのは、15分程度)
 
・前原大臣も最初は踏みとどまった。 ・地方分権なので、沖縄市の要請を国が一方的に蹴ることにはならない。
 
・皆さんの気持ちはよくわかるが、専門家委などでかなり検討してきた。 ・こうした中で総合的に判断したものであり、(前原大臣にとっては)苦渋 

の決断であった。 ・皆さんから見たら認められないと思うが。。。  内容について話をする時間がなく申し訳ない。



 
副大臣退席後は、中野参事官との問答。

    要請1および2については、事業を進めると回答。 3については、地元自治体の同意が必要であると回答。

 

4.          国の事業費。裁判で合理性が無いと指摘された12年当時の事業(1区・2区)の国の事業費は、これまで308億円と発表され、その数字が裁判、国・県・市の答弁で使われていましたが、それが「虚偽」であったことが分かりました。308億円には、新港地区多目的国際ターミナル整備事業に係る東埠頭浚渫費用は含まれてなく、泡瀬干潟周辺の浚渫(土砂を運ぶ航路など)の費用だけが計上されていただけであることが分かりました。ちなみに、新港地区多目的国際ターミナル整備事業の総予算は412億円で浚渫費(泊地)費用は357億円でしたから、泡瀬干潟埋立費用の国事業費は308+357=665億円であったことになります。国・県・市は、国民を騙していたことになります。
 
今回は、それを隠すことができず、東埠頭の浚渫費用+1区の残りの浚渫費用=357億円(新しい案での国の埋立に係る費用)になっています。面積は半分(187haから96ha)なのに、事業費が2倍(483億円から1162億円)になったカラクリが分かりました。

5.          沖縄市の事業に対する国庫負担分125億円。(答弁)現時点で支出が確約されたものではなく、沖縄市が現制度を基にして想定した額。埋立が完成したあと個別の具体的事業が計画された時、国と沖縄市の協議の下で決まる金額である。

6.          沖縄県事業306億円に対する国庫負担額。(答弁)国の補助は3分の2弱程度(想定202億円)と思う。県のインフラ整備、人工海浜護岸、港湾施設、アクセス道路等にたいする国庫補助である。

7.          国負担(予想634億円)の支出が妥当なのか。国負担(予想634億円)の内訳は、国事業費357+沖縄市への国庫補助125億+県事業費(306)への国庫補助(半額)=634。答弁では、県補助は、半額ではなく、3分の2弱、想定202億円であるから、国負担額は、357+125+202=684である。答弁では、土地売却分はあとで国庫収入であるから、その分を除くとなていますから、684−(土地売却分、沖縄市99億円、これは県から市への売却。国から県への売却は未だ未定なのでこの額はは想定。)=585億円。国は、沖縄市の新たな土地利用計画のために、585億円を支出することになる。

8.          私が沖縄市に公文書公開を請求したところ、3月に策定された沖縄市案を基に国に提出された「沖縄市東部海浜開発事業(土地利用計画市案)」は、5月7日、5月21日、6月17日、7月8日の4回にわたる。5月7日の案から公開された7月30日の案まで、諸々の予測値・数値が4回訂正されている。経済的合理性を検証するため、この途中の沖縄市案を請求しているが、数値部分は黒塗りされて、合理性の検証ができない。それを国に「どの部分がブラシュアップされたのか、経緯を明らかに示すこと」を要請したら、沖縄市が公開できないとしていることから、国も公開できないという答弁でした。しつこく追求しましたが、駄目でした。合理性を検証するための、今後の大きな課題です。

9.          沖縄市案にある、波及効果の雇用者所得について、東京連絡会の松元さんの追及がありました。
要請書には無かった項目ですが、前回の内閣府との面談でも話題にし、計画書通りであれば雇用額単価が445万円となります。これは、総務省や沖縄県の統計とは遥かに相違しており、この数字の根拠がハッキリしていません。 前回は「県民所得が445万円だったはず」と事務方が言っていましたが、今回は誰も明確な返事はありませんでした。

10. 沖縄県民の一人当たり市町村民所得を沖縄県の統計で調べてみました。(前川盛治)


http://www.pref.okinawa.jp/toukeika/ctv/2007/ctv2_3.xls


平成19年度  県平均2,049千円(205万円)、沖縄市1,926千円(193万円)
所得には、賃金だけでなく、諸々の収入も入っていますから、実質雇用者所得は、193万以下と思われます。

沖縄市案では、就業誘発者数1,347人(市外を含めると1,933人)、雇用者所得誘発額60億円ですから、割り算(60億÷1,933)すると一人当たり319万円となります。上記の金額と較べると、あまりにも出鱈目な数値(319÷1931.6倍)であることが分かりました。

沖縄市案は、その他にも、不合理な数値が沢山あります。例えば、宿泊日数は、現在、県全体は2.71泊、沖縄市の実態は1.84泊であるのに、平成30年では、沖縄市も県平均の2.71泊で計算する、入域観光客数が過大な予測になっている、税収入の増加を市の収入増加にする、民間企業が全て順調に行く、産業連関表も平成12年度のものを使う・・・・・など。

数値を精査すればするほど、沖縄市案がデタラメであり、国は「厳しくチェックしていない」(経済的合理性がない)ことが分かります。私が請求した、沖縄市の最初の案(57日頃)と、730日の案の比較検討が重要になってきます。また、その資料が仮に手に入らなくても、数値のデタラメさは証明出来るはずです。