(2)第1期工事計画区域内の深場で5種の貝類貴重種を発見

泡瀬干潟生物多様性研究会・日本自然保護協会(泡瀬干潟自然環境調査委員会)・泡瀬干潟を守る連絡会は,2004年の調査において,泡瀬の第1期工事計画区域内の深場(学術用語では潮下帯=干出しない海域)から以下のような貝類の貴重種(オキナワハナムシロカゲロウヨフバイコウシヒメムシロヤマホトトギスコバコガイ)を発見しました。

オキナワハナムシロ Nassarius optimus (Sowerby, 1903) (オリイレヨフバイ科)

第1期工事計画区域内の深場(水深3〜6m)で生貝2個体が確認された.本種は,久保・黒住(1994)によって「名護」から記録されているが,琉球列島の具体的な生息地は他に知られておらず,泡瀬は現在(報告者らの知る限り),本種の国内2番目の生息分布確認地である.本種は内湾潮下帯の砂泥底に生息し,琉球列島では生息地が極限されている種と考えられる.沖縄島は本種の分布の北限である可能性がある.WWFジャパンのレッドデータブック(和田ほか、1966)では「危険」と評価されている.
カゲロウヨフバイ Nassarius sp.  (オリイレヨフバイ科)

第1期工事計画区域内の深場(水深3〜6m)で生貝3個体が確認された.本種は,奥谷(2000)によれば,学名未確定種(Zeuxis sp.)で,奄美・沖縄諸島の内湾・水深2-30mに分布するとされる.久保・黒住(1994)が「名護」から,沖縄県立博物館(1992)が「名護市瀬嵩」から,タテヤマヨフバイ Nassariuscomputusとして記録した貝と同種であると考えられる.タテヤマヨフバイは本州の水深・数10m以深に生息する種であり,カゲロウヨフバイとは別種であると考えられる.琉球列島での生息地は内湾域において局所的にしか確認されていない.
コウシヒメムシロ
Nassarius (Hima) taggartorum
Kuroda, 1960

(オリイレヨフバイ科)

第1期工事計画区域内の浅場から深場にかけて(水深1.5〜6m),新鮮な殻1個体とやや古い殻複数が確認された.本種は「沖縄群島産貝類目録(黒田,1960)」で「与那原湾馬天」(注:佐敷町馬天)を模式産地して新種記載さ れた.黒田(1960)の原記載の記録は浚渫砂泥から得られた殻であり,本種はこれまで生息が確認されたことがない.泡瀬において新鮮な殻が得られたことから生息している可能性があり、詳細な調査が必要である.本種はナミヒメムシロassarius (Hima) pauperus (Gould, 1850)と同種とされることもあるが(Cernohorsky ,1984; Higo et al., 1999),殻の格子状彫刻が著しく,肩角が張るなどの特徴がある.両種の種間関係については詳細な検討が必要 であるが、報告者は別種であると考えている.琉球列島では中城湾からしか記録されていない.
本種はこれまで図示されたことが2例しかなく、カラー写真が公開されるのは今回が初めてである.
ヤマホトトギス Musuculista japonica (Dunker, 1857) (イガイ科)

第1期工事計画区域内の深場(水深3〜5m)で生貝1個体・殻3個体が確認された.ムールガイの名で知られるイガイ類の仲間.本種は,房総半島以南〜東南アジアに分布するが(奥谷,2000),日本では本州〜九州でしか確認されておらず,これまで琉球列島からは記録がなかった(黒田, 1960;久保・黒住, 1995;Higo et al., 1999;名和, 2001等).また,泡瀬の個体群の殻には斑紋が少なく,本州の個体群とは模様が異なる.愛知県レッドデータブック(愛知県環境部自然環境課,2002)では絶滅危惧IA類(CR),WWFジャパンのレッドデータブック(和田ほか、1966)では「危険」と評価されている.
コバコガイ Montrouzieria clathrata Souverbie, 1863 (アサジガイ科)

第1期工事計画区域内の深場(水深3〜5m 6m)でやや新鮮な片殻が複数得られ,生息しているものと考えられる.1cm程度の小形の二枚貝類.本種は,沖縄産として過去に記録されたことがあるが(波部, 1977),それまでには記録のなかった種(黒田, 1960)である.また,その詳細な分布域や生息場所は全く不明であった(Higo et al., 1999等)が,今回の発見によってその生息環境が解明されつつある.